カダバーと動画で学ぶ脳深部アプローチ
𠮷田一成 監修 / 井川房夫 編著 / 岡 秀宏 編著 / 秋元治朗 編著
B5判 264頁
定価11,000円(本体10,000円 + 税)
ISBN978-4-498-32820-4
2018年10月発行
在庫あり
カダバーと動画で学ぶ脳深部アプローチ
𠮷田一成 監修 / 井川房夫 編著 / 岡 秀宏 編著 / 秋元治朗 編著
B5判 264頁
定価11,000円(本体10,000円 + 税)
ISBN978-4-498-32820-4
2018年10月発行
在庫あり
監修の序
本邦の脳神経外科医数は,人口当たりにすると,米国の4倍以上である.米国と日本では,脳神経外科医の診療内容,手術の領域も多少の違いがあるが,脳神経外科医一人当たりの年間の手術件数は,本邦では,米国の20分の1以下とされている.このことは,日本脳脳神経外科医の手術経験数がかなり少ないことを意味している.本邦においては,脳神経外科医が内科的治療やリハビリなどに専念していることもあることや,末梢神経疾患はあまり扱わず,脊椎・脊髄疾患などは,整形外科医も行っているという背景もあるが,施術を行っている脳神経外科医一人あたりの手術経験数もそれほどは多くないと思われる.そのような現状下にありながら,本邦の脳動脈瘤のclipping手術の成績は,米国に勝るとも劣るものではない.これは,clipping手術に限ったことではないと思われる.日本の脳神経外科医が,如何に症例を大切にし,普段から研鑽を積んでいるかを如実に示しているものと思われる.
本書のキーワードは,「カダバー」と「動画」である.脳深部へのアプローチは,その多くが既に確立された術式であるとはいえ,決して一人の脳神経外科医が数多く経験できるものではなく,技術的にも難易度は高い.これまでは,解剖や生理学,神経学などの知識を基盤とし,先人たちが開拓してきた術式を,論文,手術書から学び,実際の手術を見たり,助手をしたり,指導を受けて術者となったりして,技術を習得してきた.現在では,動画を様々な手段で見られるようになり,手術見学と同じ体験が容易にできるようになった.法整備の問題は残っているが,カダバーを用いたサージカルトレーニングも,ガイドラインが作成され,広く大学病院で行えるようになった.カダバーでの勉強には,単なるサージカルトレーニングのみではなく,実際の手術では見られない部位,見てはいけない部位を見ることができるという大きな利点がある.また,手先の腕を磨くのみではなく,解剖を手術と同じような条件下で勉強し,手術戦略の立て方の研鑽を積むことができる.本書では,「動画」,「カダバー」の特性を駆使して,脳深部病変に対するエキスパートの技術を明快に解説している.本書が,日本の脳神経外科医の技術の向上に寄与し,医学の発展の一助となることを心から祈念いたします.
2018年8月
慶應義塾大学医学部脳神経外科学教授
𠮷田一成
目次
I 脳室へのアプローチ
A.側脳室
1.Transcallosal approach
1)手術 〈森迫拓貴,後藤剛夫,大畑建治〉
適応と術前検査
体位,手術手技
1.体位,皮膚切開,開頭
2.硬膜切開
3.大脳半球間裂開放と脳梁の露出
4.脳梁切開と側脳室内操作
症例提示
本アプローチの利点・欠点
2)カダバー 〈河島雅到,岡 秀宏〉
解剖
1.上矢状静脈洞と皮質静脈
2.側脳室の微小外科解剖
手術
カダバー動画の解説
1.大脳半球間裂操作
2.側脳室内操作
2.Paramedian high parietal lobe approach
1)手術 〈岡 秀宏〉
側脳室三角部への手術アプローチ
1.Paramedian high parietal lobe approach
2.手術動画解説
2)カダバー 〈岡 秀宏〉
側脳室手術に必要な微小外科解剖(側脳室の微小解剖)
三角部へのアプローチ
1.Posterior transcortical approach
2.Occipital transcortical approach
3.Transsylvian approach
カダバーによる解説
1.体位
2.皮膚切開
3.開頭
4.脳皮質切開
5.病巣へのアプローチ
3.Interhemispheric precuneus approach
1)手術 〈西崎隆文〉
IPAの利点
対象症例と術前検査
IPAの手術手技
1.体位
2.開頭,硬膜切開
3.後頭葉半球間裂への進入
4.楔前部 (precuneus)の同定・皮質切開
5.腫瘍内減圧・栄養血管処理
術後合併症
劣位半球・優位半球三角部大型腫瘍のアプローチ
症例提示
1.Interhemispheric precuneus approach (IPA)症例
2.他のアプローチを選択した症例
2)カダバー 〈岡 秀宏〉
側脳室三角部へのアプローチ
カダバーによる解説
1.体位
2.皮膚切開
3.開頭
4.脳皮質切開
5.病巣へのアプローチ
B.第三脳室
1.Interhemispheric trans-lamina terminalis approach
1)手術 〈井川房夫〉
体位,皮膚切開,開頭
硬膜内操作
1.嗅神経剥離
2.大脳縦裂の剥離
3.前交通動脈,穿通枝,視神経交叉,終板
4.第三脳室内操作
脳底動脈瘤クリッピング術
2)カダバー 〈井川房夫〉
Basal interhemispheric trans-lamina terminalis approachのカダバー動画
第三脳室
1.前壁
2.フロア
3.側壁
2.Transchoroidal fissure approach
1)手術 〈岡 秀宏〉
脈絡裂を利用した手術アプローチ
1.Velum interpositum病変へのアプローチ
2.前方経脳梁到達法(anterior transcallosal approach)
Transcallosal approachからtranschoroidal fissure approachへの解説
2)カダバー 〈河島雅到,岡 秀宏〉
解剖
1.脈絡裂の解剖
2.第三脳室の解剖
手術
Transchoroidal fissure approach動画
C.第四脳室
1.手術 〈高安武志,栗栖 薫〉
解剖
手術
1.体位と頭位
2.皮膚切開・筋層展開
3.大後頭孔周辺の露出
4.開頭
5.硬膜切開
6.顕微鏡操作
2.カダバー 〈原田洋一〉
小脳表面と小脳延髄裂
小脳延髄裂と第四脳室底
II 松果体部へのアプローチ
1.Occipital transtentorial approach
1)手術 〈有田和徳,米澤 大,細山浩史/馬見塚勝郎〉
手術までの手順
1.術前の画像読影のポイント
2.手術側の決定
3.体位
手術のコツ
1.開頭
2.後頭葉の損傷を最低限に抑えるための工夫
3.架橋静脈の処理
4.顕微鏡の導入
5.小脳天幕の切開
6.くも膜の開放
7.腫瘍の露出
8.周囲組織からの剥離
9.腫瘍の摘出
10.腫瘍上面の摘出
11.閉創
内視鏡下併用OTAでの腫瘍摘出
動画症例
2)カダバー 〈秋元治朗〉
アプローチ側の決定
体位と頭部の回旋
皮膚切開と開頭
後頭葉の圧排
テント切開
松果体および第三脳室後半部の展開
2.Supracerebellar infratentorial approach
1)手術 〈深見忠輝,野崎和彦〉
適応
術前検査
体位(坐位)
手術手技
1.皮膚切開
2.開頭
3.硬膜切開
4.小脳上面における術野確保(suprascerebellar infratentorial approach)
5.四丘体槽に存在する肥厚したくも膜の開放
6.腫瘍摘出
7.閉頭
8.術後管理
症例提示
2)カダバー 〈堀口 崇,戸田正博〉
Step 1 皮膚切開から開頭まで
Step 2 硬膜切開
Step 3 小脳テント下に小脳上面を剥離
Step 4 小脳テント下面を正中に向かい肥厚したくも膜を視認
Step 5 肥厚したくも膜を切開しGalen静脈系を露出
Step 6 四丘体槽のくも膜を切開し松果体を露出
Step 7 上丘および下丘を露出
Step 8 再び松果体と深部静脈系を観察
Step 9 四丘体部および滑車神経を視認
III 側頭葉・脳幹部へのアプローチ
1.Subtemporal transtentorial approach
1)手術 〈中尾直之〉
手術手技
1.Subtemporal transtentorial approach
2.Subtemporal interdural approach
2)カダバー 〈野口明男,塩川芳昭〉
長所と短所
静脈還流
Cadaver dissection手技
1.皮切
2.開頭
3.側頭葉中頭蓋底硬膜から大錐体神経,卵円孔,三叉神経第二・三枝の同定
4.Transtentorial approach
応用編
2.Transsylvian selective amygdalohippocampectomy
1)手術 〈森野道晴〉
手術手技
1.体位,皮膚切開および開頭範囲
2.シルビウス裂の開放と側脳室下角への到達
3.扁桃体の部分摘出と海馬の前方離断
4.海馬の腹側離断
5.海馬の背側離断
6.海馬の導入動脈の凝固切断
7.海馬の後方離断
2)カダバー 〈秋元治朗〉
体位および皮膚切開,開頭範囲
シルビウス裂の開放と側脳室下角への到達
海馬,脈絡裂,扁桃体の視認
海馬頭部〜体部の摘出,海馬傍回の摘出
大脳脚,後大脳動脈の視認と扁桃体摘出
3.脳幹部手術
1)手術 〈本郷一博〉
適応
術前検査
手術アプローチの選択
体位,手術手技
1.Trans-4th ventricular floor approach
2.Anterior petrosal approach
3.Supracerebellar infratentorial approach
摘出方法
術中電気生理学的モニタリング
症例提示
症例1
症例2
症例3
2)カダバー 〈柿澤幸成〉
発生
1.脊髄
2.延髄
3.橋
4.中脳
脳幹部の外観
1.延髄
2.橋
3.中脳
4.第四脳室底構造
内部構造,神経核,神経線維
1.中脳
2.橋
3.延髄
手術アプローチ
1.中脳
2.第四脳室
3.橋
4.延髄
IV 深部白質線維を考慮した外科手術
1.手術
1)前頭葉白質 〈中田光俊,中嶋理帆,木下雅史〉
適応と術前検査
体位,手術手技
症例提示
1.皮質マッピング
2.皮質切開・病変摘出
3.皮質下マッピング
4.術後
本アプローチの利点欠点
1.利点
2.欠点
2)側頭葉白質 〈村垣善浩,丸山隆志〉
解剖
術前計画
側頭葉外側・内側腫瘍へのアプローチ
1.皮切と開頭
2.上側頭回を残した側頭葉外側部分の切除
3.上側頭回を含む側頭葉腫瘍の段階的摘出
三角部腫瘍へのアプローチ
1.側脳室三角の解剖
2.三角部への側頭葉を経由した手術アプローチ
3)島部 〈隈部俊宏〉
外側レンズ核線条体動脈 (LSA)の正常解剖
LSA障害の実際
LSA温存の実際
4)頭頂葉白質,後頭葉白質 〈秋元治朗〉
症例
手術戦略
手術
1.硬膜下電極留置術
2.ベッドサイドでの脳機能マッピング
3.開頭腫瘍摘出術
病理診断
術後経過
2.カダバー
1)Medial approach 〈藤井正純〉
脳表解剖
1.大脳内側面(前頭葉・頭頂葉・後頭葉)
2.側頭葉内側構造(海馬・海馬傍回)
白質解剖
1.大脳内側面のU fiberとcingulum
2.脳梁の交連線維群
3.脳室周辺解剖
4.Thalamic peduncle, corona radiata
5.Fornix
2)Lateral approach 〈森 健太郎,小林 靖〉
Lateral approachによる解剖で対象となる主な白質線維束について
Lateral approachで必要な脳溝・脳回解剖と島の解剖
Klingler法による白質解剖の準備
白質解剖の基本手技
Lateral approachによる白質解剖の実際
1.弓状線維(arcuate fiber, U-fiber)の剖出
2.下縦束(inferior longitudinal fasciculus)の剖出
3.上縦束(superior longitudinal fasciculus)/弓状束(arcuate fasciculus)の剖出
4.鉤状束(uncinate fasciculus)と下後頭前頭束(inferior frontooccipital fasciculus)の剖出
5.前交連(anterior commissure)の剖出
6.視放線(optic radiation)の剖出
7.内包(internal capsule),放線冠(corona radiata),錐体路(pyramidal tract)の剖出
3)白質神経線維の走行と機能 〈中田光俊,中嶋理帆,篠原治道〉
白質解剖の準備
白質神経線維
1.上縦束(superior longitudinal fascicle: SLF)
2.弓状束(arcuate fascicle: AF)
3.前頭斜走路(frontal aslant tract: FAT)
4.鉤状束(uncinate fascicle: UF)
5.下縦束(ILF)
6.下前頭後頭束(IFOF)
7.視放線(optic radiation: OR)
8.錐体路 (pyramidal tract: PT)
9.帯状束 (cingulum)
10.感覚路
11.前頭線条体路(fronto-striatal tract: FST)
12.中縦束(middle longitudinal fascicles: MdLF)
V 臨床解剖の教育と研究
1.「臨床医学の教育及び研究における死体解剖のガイドライン」の解説と
スタートアップの留意点 〈七戸俊明〉
ガイドライン公表までの経緯
ガイドラインの趣旨と,実施可能な遺体使用の例
Cadaver trainingの現状と今後の課題
新たにcadaver trainingを導入する際の留意点
2.クリニカルアナトミーラボ(CAL)運用の現状について 〈鈴木崇根〉
クリニカルアナトミーラボとは
1.利用実績
2.CAL設立までの流れ
3.CALの設備
4.CALの感染対策
5.御遺体の保存法の種類
医学部におけるcadaverを取り巻く諸問題
1.解剖学教室をよく理解すること
2.医師が自由に解剖するために必要なこと
クリニカルアナトミーラボの運営システム
1.CAL運営委員会と管理者の業務
2.CALにおける解剖学教室の業務
クリニカルアナトミーラボの課題
1.マンパワー
2.運営資金・開催資金
3.望まれる感染対策
4.企業との適切な協力体制
5.外部団体とのwin-winな関係
クリニカルアナトミーラボの未来
おわりに
索引
執筆者一覧
𠮷田一成 慶應義塾大学医学部脳神経外科学教授 監修
井川房夫 島根県立中央病院脳神経外科部長 編著
岡 秀宏 北里大学メディカルセンター副院長・北里大学医学部脳神経外科学教授 編著
秋元治朗 東京医科大学脳神経外科学教授 編著
岩立康男 千葉大学大学院医学研究院脳神経外科学教授 編著
森迫拓貴 大阪市立大学大学院医学研究科脳神経外科学講師
後藤剛夫 大阪市立大学大学院医学研究科脳神経外科学講師
大畑建治 大阪市立大学大学院医学研究科脳神経外科学教授
河島雅到 国際医療福祉大学医学部脳神経外科学主任教授
西崎隆文 宇部興産中央病院副院長・診療科長
高安武志 広島大学大学院医歯薬保健学研究科脳神経外科学
栗栖 薫 広島大学大学院医歯薬保健学研究科脳神経外科学教授
原田洋一 水戸ブレインハートセンター副院長
有田和徳 鹿児島大学名誉教授
米澤 大 鹿児島大学大学院医歯学総合研究科脳神経外科学助教
細山浩史 鹿児島大学大学院医歯学総合研究科脳神経外科学助教
馬見塚勝郎 藤元総合病院在宅療養科診療科部長
深見忠輝 滋賀医科大学脳神経外科学講師
野崎和彦 滋賀医科大学脳神経外科学教授
堀口 崇 慶應義塾大学医学部脳神経外科学専任講師
戸田正博 慶應義塾大学医学部脳神経外科学准教授
中尾直之 和歌山県立医科大学脳神経外科学教授
野口明男 杏林大学医学部脳神経外科学講師
塩川芳昭 杏林大学医学部脳神経外科学教授
森野道晴 熊谷総合病院名誉院長
本郷一博 信州大学医学部脳神経外科学教授
柿澤幸成 諏訪赤十字病院脳神経外科部長
中田光俊 金沢大学医薬保健研究域医学系脳・脊髄機能制御学教授
中嶋理帆 金沢大学医薬保健研究域保健学系リハビリテーション科学領域助教
木下雅史 金沢大学医薬保健研究域医学系脳・脊髄機能制御学講師
村垣善浩 東京女子医科大学先端生命医科学研究所先端工学外科学分野教授
丸山隆志 東京女子医科大学脳神経外科学講師
隈部俊宏 北里大学医学部脳神経外科学主任教授
藤井正純 福島県立医科大学医学部脳神経外科学准教授
森 健太郎 防衛医科大学校脳神経外科学講座教授
小林 靖 防衛医科大学校解剖学講座教授
篠原治道 金沢大学医薬保健研究域医学系機能解剖学分野客員教授
七戸俊明 北海道大学病院消化器外科II診療教授
鈴木崇根 千葉大学大学院医学研究院環境生命医学講師
株式会社中外医学社 〒162-0805 東京都新宿区矢来町62 TEL 03-3268-2701/FAX 03-3268-2722
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