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書籍詳細

自己愛危機サバイバル

自己愛危機サバイバル

〜摂食障害・醜形恐怖症・自己臭恐怖症の克服・治療〜

熊木徹夫  著

B6判 154頁

定価(本体1,800円 + 税)

ISBN978-4-498-22908-2

2018年09月発行

品切れ・重版未定

摂食障害・醜形恐怖症・自己臭恐怖症など,自己愛危機にさらされた女性たちがこれと闘い,克服した体験談を中心に構成する書.長年にわたって彼女たちに伴走してきた専門医による珠玉のコメント,これらの疾患についての透徹した解説も満載.自己愛危機の真実には,苦しみ喘ぐ体験者の言葉を通じてのみ,触れることができる.

熊木徹夫 くまきてつお

京都市出身。名古屋市立大学医学部卒。
あいち熊木クリニック院長・精神科医・漢方専門医。
著書に、 『精神科医になる〜患者を<わかる>ということ〜』(中央公論新社)、『精神科のくすりを語ろう』(日本評論社)、『精神科薬物治療を語ろう』(日本評論社・共著)、『ギャンブル依存症サバイバル』(中外医学社)などがある。

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まえがき
〜「私のすべてを、見て欲しい」〜

私が精神科医になりたての頃、ある先輩医師から次のようなことを聞かされました。「君がこれから2年間の研修医時代に出会う患者さんを、とりわけ大切にしなさい。なぜだか分からないが、最初に出会った患者さんとよく似た人々とこれからの精神科医人生で何度も出会うことになる。そして、そこで現れたテーマに否が応でも向き合ううちに、最終的にそれがライフワークとなっていく」
なんだかオカルト的なことを言う先生だ、と当時は少々訝しく思ったのですが、それから二十数年経過して振り返ったところ、見事そのようになっている。初学者であった私に胚胎したいくつかのテーマは、今に至るまで私という精神科医の大本を形成してきているのです。
そしてこれからお話しする患者さんも、私にとり忘れ得ぬ人であり、彼女との出会いが私の奥底にある何ものかを激しく揺さぶったことは間違いありません。

それは、精神科医になり半年くらい経った時のこと。私はその日、病棟の当番医で、複数の患者さんを相手に、採血・点滴などを行っていました。
当時の私は、来る日も来る日も採血を立て続けに行っていました。精神科医が採血ばかり、なんて変だな、と思う方が多いでしょう。私も精神科医になったばかりの頃、むしろ「精神科医はこころの医者だから、精神療法のみに邁進すればいい」なんて考えていた。同僚の精神科医も採血はうまくない人が多く、だからといって、そのことに負い目は感じてないふうでした。
ところが、精神科医になって1ヶ月もしないうちに、「身体的アプローチがうまくならなくて、本当にいい精神科医療ができるのか」などと生意気にも考えるようになりました。精神科医にとり言語的アプローチはいうまでもなく重要なこと。しかし、非言語的アプローチがなくては深まらない関係性もあると予感したのです。注射は、医師にとって一番基本的な身体的アプローチ。まずこれから習熟を図ろうと思い、外来の主任看護師に「できる限りの採血をさせて欲しい。呼ばれたらすぐ行きますから」と話し、了承を受けた。これについて、元々注射に熱心ではない同僚からは歓迎され、私に採血の仕事を回してくれました。元来不器用な私は、当初失敗ばかりで、患者さんにも看護師にも迷惑をかけていましたが、忍耐強く受け止めていただける幸運もあり、しわじわですが精度が上がっていきました 。やがて、誰がやってもなかなか成功しない難しい患者さんからの採血でも成功するようになっていき、ようやく自信が持てるようになりました。
話を戻します。その日の最後に、一人の女性患者・Yさんのベッドサイドにやってきました。彼女は摂食障害で2年にも渡る入院生活を送っていた。初対面の私にも気さくに話しかけてくれ、にわかにはその病気の重さを察せられませんでした。腕をまくると、黒々とした脈が浮き出てきた。「一見採血しやすそうだけど、これが手強いのよ。注射針を刺そうとすると、くるりと脈が逃げちゃうの。初めてやって注射に成功した先生はこれまでにないのよ」と、なぜだか自嘲気味につぶやくのでした。そのとき、注射を成功させなくとも、彼女に責められることはなかったでしょう。しかし、彼女を深く失望させるような気がした。「何としても、一発で注射を決めなくては」と考えました。
結果は、成功でした。すると彼女の顔はパァーと明るくなり、「一回で成功させてくれた人は初めて」と言ってくれた。その一件から、彼女は私を少し信頼してくれるようになりました。ただ、私は彼女の担当医ではないので、長いカウンセリングを行うことなどはない。ただ、病棟で会えば挨拶をする、そのような関係でした。
それから数カ月経過したある日、私は当直医として夜間の病棟回診をしていました。そこで彼女に呼び止められた。「どうしても、先生に見てもらいたいものがある。それを見て欲しい」と。
回診が終了してから、彼女の元に行くと、彼女は私を女子トイレの入り口付近に案内します。彼女はトイレの洗面台に向き合っている。私はトイレの外。そこで「これが私のすべて。これまで誰にも見せたことはないけど、どうか見て欲しい」と言って、いきなり身体全体を波打つように震わせました。するとゴボンゴボンと異様な音。そして口のあたりからビシャーと吐物が噴水のように溢れました。手を口に入れることもなく!これを何度も繰り返す。内発的・律動的に嘔吐を継続するさまは、「人間ポンプ」さながらです。トイレの中は真っ暗ですが、窓の外の薄明をバックに、蠢く彼女が影絵のように映し出されて、まるで奇妙な夢を見ているかのよう。ひとしきり吐いた彼女は、よろよろとトイレの外に這い出て、すとんとへたり込みました。私はここでようやく我に返り、看護師を呼んで、彼女をベッドまで一緒に連れて行く。そのとき、何て声を掛けたか、自分でも覚えていない。
その後、当直室に帰り、しばらく天井を見つめながら考えていました。これまでに彼女とそれほど多くの言葉は交わしていませんが、当時の私にとって、取り扱いあぐねるような重いメッセージを託されたのだと感じました。担当医でもない私が、Yさんとこれ以上濃密に関わるべきでないとは思う。そんな私は、そもそも何をしてあげるべきだったのか、それとも何もすべきでなかったのか。このメッセージ、これからどう咀嚼してゆくべきなのか…。
それから何年もの月日が経ち、あのメッセージに私なりの意味づけが行われました。患者さんの信頼を受けることは難しいが、患者さんの人生の一端を引き受けることはもっと難しい。あの時、期せずして、患者さんの人生のとば口を覗く羽目になったが、当時の私はただ慄然とするだけで、それを受け止める度量がなかった。詰まるところ、「おまえに、患者さんの人生を受け止める覚悟ができているのか」と、問われた気がしてならない。
そして今、私は摂食障害治療の専門家になっている。

本書は、摂食障害・醜形恐怖症・自己臭恐怖症など、自己愛危機にさらされた女性達が、格闘・克服した過程を描いた記録書であり、伴走した精神科医から同様の悩みで苦しむ女性達(そして、治療に携わる方々)に捧げる指南書です。教科書的なことにはあまり触れていませんので、そのような記述を望まれる方は他書をご参照ください。ただ、本書にはあちこちに、苦しみ喘ぐなかからしか発せられないであろう本音の言葉・値千金の言葉が横溢している。あなたに自分の人生を受け止める覚悟があるなら、必ずやこころに響く言葉に出合えるでしょう。
人生はリレーです。かつてYさんから私が大切なバトンを受け取ったように、あなたも先輩たちからどうかこのバトンを受け取ってほしい。そこに「ありのままの自分が、存在することを許せるようになる」ヒントがあるはずです。

2018年8月
熊木徹夫


【おことわり】
 2014年に出されたDSM-5において、従来の「拒食症」は完全に「神経性無食欲症」と呼び替えられています。これは本疾患において、“食を拒む”という患者の主体性が汲み取れない場合が数多く見られるからです。
例)「食べたいのに食べられない」と言いながら、摂取カロリー制限を行うような方向に向かう。
この際、摂取カロリー制限を行うことは、主体的に認識されているのか、そうでない(潜在意識がそうさせている)のか、患者本人も治療者も了解できない場合がままある。
 このような事情は承知していますが、本書ではこれまでに呼び習わされてきた「拒食症」という名称を一貫して用いています。
 あらかじめ、ご了承ください。

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目次

まえがき〜「私のすべてを、見て欲しい」〜

第1章
 摂食障害、時代の諸相
 摂食障害(神経性大食症および神経性無食欲症)治療のキモ 
  〜ただのダイエットでは済まない、あなたのために〜
 はじめに
 どのようにして拒食症になるのか
 拒食症の特徴
 <過食嘔吐サイクル>の完成
 過食症の特徴
 過食症・拒食症治療のキモ
 “美の競演”のうちに潜む摂食障害
 依存症治療はもはや、「対高度資本主義社会」の様相を呈している
 克服・治療体験記 1-1 「摂食障害には“ありがとう”と言ってきっぱりお別れしよう」
 克服・治療体験記 1-2 「あなたの“ありのままの魅力”を受け入れてくれたんだね」
 克服・治療体験記 1-3 「体の声を聞くことがとても重要だ」
 克服・治療体験記 1-4 「息をして生きているだけで偉いんだ」
 克服・治療体験記 1-5 「30代も半ば過ぎたら、人生から嫌なことを取り除いてもいいんだよ」
 克服・治療体験記 1-6 「必ず1人はあなたのことを好きな人がいるんです」
 克服・治療体験記 1-7 「まず驚いたのは、拒食症について何も触れてこなかったことです」

第2章
 自尊感情低落の深層
 「現代型・自尊感情の低落」とは何か 
  〜摂食障害(過食症・拒食症)・醜形恐怖症・自己臭恐怖症治療から見えてくるもの〜
 「死んでしまいたいくらい、寂しくて寂しくて」(<自尊感情が低落している方>への臨床相談)
  〔『もう悩まなくていい〜精神科医熊木徹夫の公開悩み相談〜』(幻冬舎)より〕
 克服・治療体験記 2-1 「通い始めて1年ほど経って、イベントに“色”が付き始めました」
 克服・治療体験記 2-2 「あんなに嫌だった夏も、そんなに嫌ではなくなりました」
 克服・治療体験記 2-3 「カミングアウトにはすごく勇気がいります」
 克服・治療体験記 2-4 「自分ぐらい、自分のことを愛してあげてほしいし、
             優しくしてほしいし、守ってほしい」
 克服・治療体験記 2-5 「先生なら娘の気持ちを理解してくれるし、治してもらえると思いました」
 克服・治療体験記 2-6 「こんな自分でも生きてていいのかな、誰かを頼っていいのかな」
 克服・治療体験記 2-7 「私に好かれようと努力しないでくださいね」

第3章
 女性の貌とナルシシズム
 醜形恐怖症治療から垣間見える、女性のナルシシズム 生成の危うさ〜鏡と化粧の意味〜
 現代の美の“魔術師”美容整形外科医自身が、醜形恐怖症になった理由
  〜美しくても逃れられない、女性ナルシシズム由来の苦しみ〜

あとがき 〜「こけおどしの強さ」には惹かれるな〜

索引

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熊木徹夫  あいち熊木クリニック 院長 著

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