序 文
個人的な話からで恐縮ですが,2002〜2005年まで静岡県立静岡がんセンターの腎・内分泌・代謝科に勤務しておりました.当時,そこで感じたことは,がん専門病院ではがんに対する治療は徹底的に行われますが,それ以外のことについては,必ずしも十分な治療が行われていない,ということでした.腎臓内科医で,がん治療を行ったことのない私にとっては,とても貴重な体験だったと同時に,がん治療による合併症あるいはがん患者の合併者や生活習慣病に対し,非がん治療医はもっと関心を払い介入する必要がある,ということを学ばせていただきました.
現在,がんは二人に一人が罹患する時代です.がん治療を中心的に行っている医療スタッフは,治療に伴う合併症の予防や症状の軽減などの支持療法は,不可欠な治療法の一つです.一方,がん治療に直接関わらない医師やスタッフも,がん患者の高齢化や合併症の増加に伴い,支持療法をサポートする機会がとても増えています.
がん患者の支持療法は,基本的には一般診療と変わりませんが,腫瘍そのもの,あるいはがん治療の影響により,一般的な病態とがん固有の病態が混在しうるため,両者の影響を評価した上で支持療法を実践する必要があります.
本書ではがん治療医,非がん治療医の両者の立場からみた38の代表的な支持療法を取りあげ,それらの病態,診断,治療について,それぞれQ&A形式で解説しています.前半はがん治療時に遭遇しやすくて一般内科医も知っておくべき問題について,後半はがん治療後に遭遇し,長期的な対応が必要となる事例を取りあげました.特に,がん診療に携わる研修医や若手医師や,看護師・薬剤師・管理栄養士・理学療法士などの医療スタッフにとって,わかりやすい内容に仕上がっております.是非とも本書をご活用いただき,がん支持療法のやりかた,考えかたについて,理解を深めていただければ幸いです.
最後に,本書では個人的な面識がないにもかかわらず,快く執筆を引き受けていただいた先生方が大勢いらっしゃいます.また,静岡県立静岡がんセンターから現在に至るまで,個人的にお世話になった多くの先生方にも執筆いただきました.日常診療で大変お忙しい中,本書の作成にご協力いただいたすべての先生方に,この場を借りて深謝申し上げます.本当にありがとうございました.
2018年5月吉日
浜松医科大学医学部附属病院血液浄化療法部
加藤明彦