まえがき
本書は,タイトルにも掲げたように,臨床現場において輸血療法を実践する医療従事者を対象に企画された輸血ポケットマニュアルです.従来,輸血療法に関する著書は数多くありますが,携帯可能なポケット判の輸血マニュアルは,「輸血療法の実施に関する指針」と「血液製剤の使用指針」以外にはなかったように思います.本書の最大の特徴は,輸血療法を行うプロセスに沿って,シチュエーション別に,なぜ,その作業を行わなければならないのかの理由と解説を記載した点です.
本書は,第I部 輸血療法概論,第II部 輸血療法の実際,第III部 ミニキーワード集の三部構成です.第I部は,輸血療法の基礎知識と概要について総論的に記載しており,輸血療法全体の知識を再確認することができます.第II部の輸血療法の実際は,本書のメインパートであり,輸血療法のプロセスに沿って項目立てを行い,なぜ,その作業を行わなければならないのかの理由と解説を記載しています.第III部のミニキーワード集は,輸血療法に関して重要と思われるキーワードについて,簡潔な説明を加えました.和文(アイウエオ順)と欧文(アルファベット順)に分かれており,原則として,どちらからでもキーワードにたどり着けるようにしました.また,説明文中の赤字で示した用語は,別項目としてキーワード集に収載されています.本書において,各章の記載に重複する部分がありますが,シチュエーション別に読まれることを念頭においているためです.本書は,輸血療法の実践に主眼をおいており,個々の病態に関する記述は必要最小限にとどめておりますので,必要な場合には他書を参照していただければと思います.
本書を執筆するきっかけは,医療系の職種を目指す学生さんを対象に企画された『輸血学テキスト』を中外医学社から出版させていただいたことです.学生さんの勉強のために書かれたテキストは,とかく定型的になりがちで,実際の輸血療法のプロセスからかけ離れている感を否めませんでした.やはり,臨床現場において輸血療法を実践している医療従事者のためのテキストが必要ではないかと,ずっと考えてきました.今回,中外医学社企画部の担当の方から,ユニークな企画ではないかというご判断をいただいたことで,執筆することになりました.本書は,2017年5月から順天堂大学医学部附属浦安病院の輸血室長にご就任された大久保光夫先生との共著になります.大久保先生は,以前より輸血療法に関する著書を執筆されており,輸血医学にとても造詣の深い先生です.共著ということで,文章のニュアンスが若干異なる部分もあるとは思いますが,ご了承いただければと思います.
臨床現場において,輸血療法を行う上で迷った場合などに,ポケットから出して参照していただけましたら,著者としてこの上ない喜びです.
2018年 初夏の御茶の水にて
大坂顯通