はじめに
2017年3月12日,高齢者に対する運転免許更新の厳格化を目的に改正道路交通法の運用が開始されました.私は,今回の改正道路交通法施行の数年前から愛知県公安委員会から臨時適性検査のための認定医に指定され,臨時適性検査を行うなかで高齢者,特に認知症者の自動車運転に関心を持ってきました.
3月の運用開始後,改正道路交通法について知りたい,認知症者と自動車運転,今回の改正が医療や介護の現場に及ぼすインパクトなどのテーマで全国から講演会の依頼が多数あり,可能な限り自身の経験を踏まえながら講演を行ってきました.そのなかで強く感じたことは,診断書を作成する医師側に大きな不安や戸惑い,躊躇などがみられることでした.さらに医師が今回の改正の内容を十分理解していないこと,診断書作成の決まりや手順などの情報不足があること,さらに言えば認知症の診断自体に自信がないことなど問題が山積している事実も理解できました.今回の道路交通法の改正はどちらかと言えば唐突に浮上してきた法律改正ともいえるかと思います.診断書を作成する医師側の準備不足や関係学会のやや消極的な姿勢などから認知症診断の精度の問題もあるかと思います.警察庁や日本医師会は,かかりつけ医・非専門医の先生方に診断書作成を期待しているのが事実かと思います.
そのような状況のなかで,私はかかりつけ医・非専門医の先生方が運転免許に関連する診療で認知症をより正しく診断できること,整合性のある診断書作成の具体的な手順を主題に本書の執筆を進めてきました.医師が知っておきたい改正道路交通法の概略から始まり,運転免許に関連する診療の難しさ,診断書作成のコツや手順,注意点,さらに事例呈示を柱にして,かかりつけ医・非専門医の先生方が運転免許に関連する診療に携わる際にささやかな道標になれるのではないかとの想いで本書を作成しました.
読者の先生方が運転免許に関連する診療の現場で困ったとき,どうしたらよいか悩むときに本書の該当する箇所を読んで頂ければ必ず回答がみつけられるかと自負し本書を書き上げております.本書を参考にすることで先生方の適切な診断書作成のお手伝いができることを期待しております.是非,先生方の手元に置いて頂き診療のお役に立つことができれば私の望外の喜びであります.本書の図表や本文の事例などは内容が変容しない程度に改変・手直しをしていることをお断りしておきます.
最後に本書の執筆に際して多大な助言を賜りました愛知県警本部 交通部 運転免許課 高齢者講習係ならびに臨時適性検査係の方々に感謝申し上げます.
2018年3月
著者