序文
今回のシリーズでは,水・電解質異常を取りあげました.これまでの水・電解質の教科書では,各ネフロン部位の血管側および管腔側におけるチャネルや輸送体に関する記載から始まり,その後に電解質異常の臨床像が記載されていることが一般的でした.しかし,尿細管の輸送系が複雑などの理由から水・電解質異常は難しい,という印象を持つ方も少なくなかったと思います.
実際,いまだに“低○○血症=○○の不足”とする傾向があるように思います.例えば,“低ナトリウム血症=ナトリウム不足”と考え,ナトリウムの不足を補うために1号液を輸液したり食塩を投与したりします.しかし,本当はナトリウム量の不足ではなく,細胞外液量が増えたために血液が希釈され,結果的にナトリウム濃度が低下していることの方が,病院内では遭遇する機会が多いと思われます.
今回は病院の内外で遭遇しうる水・電解質異常について,まずは典型的な症例を提示してもらいました.その上で,症例へのアプローチおよび鑑別方法,最終的な診断名,治療法(適応の有無も含めて)を解説いただきました.そして,最後に病態や臨床像をまとめていただいています.また,全体像を把握するため,巻頭にはサマリーを附記しています.
手に取っていたくと理解いただけると思いますが,各症例が一つの読みもののようなスタイルとなっています.取り上げた症例は,I.水・ナトリウム代謝の異常が13例,II.カリウム代謝の異常が11例,III.カルシウム・リン・マグネシウム代謝の異常が9例,IV.その他の電解質・酸塩基平衡の異常が6例,計39例です.水・電解質異常についてより深く知っていただきたいため,頻度が低くてもリスクのある病態や,誤った治療の可能性がある異常についても取り上げています.是非,手元に置いていただき,日常診療でお役立ていただければ幸いです.
最後に,日頃の診療や研究,教育で大変にお忙しい中,執筆にご協力いただいた先生方に,この場を借りて深く御礼申し上げます.
2018年2月吉日
加藤 明彦