序
薬剤師が医師に対して行う処方提案とは,薬物療法における薬剤選択やその投与量,投与期間などについて,患者個別に最適と思われる情報を提供する行為であり,医師と薬剤師が連携して薬物治療を考えていくための1つのきっかけといってもよいだろう.
しかしながら,実際の臨床現場において,多職種連携と呼ばれるものがうまく機能しているか,と問われれば案外そうでもないように思う.意識しているにせよ,そうでないにせよ,結局のところ,とりあえず穏便に済ます,というのが日常業務の実態ではないだろうか.とにかく表だって問題にならないように,できるだけ感情を抑え,相手を非難しないよう配慮しているうちに,真に大切な情報が共有されないことは決して少なくないように思う.逆に,徹底的に議論をしようとすれば,とても連携なんてできない状況に陥ってしまうことさえある.
これには職種間のギャップというものが大きく影響しているように思う.立場によって薬剤効果や治療に対する関心が異なり,実際に行われている治療の動機や意味づけに大きな違いがあるのだ.つまるところ,処方内容に関する問題は,問題とする側の立場の問題だったりもする.それぞれの立場から治療を考えれば,どちらにも大きな誤りはなく,異なるのは立場の違いだけということは往々にしてあるはずだ.薬剤師による処方提案とはまさにそうした状況の中で行われるものである.
正しい答えなどない,という状況の中で,どうすればよりよい処方提案につなげることができるのか.そんな疑問に悩む薬剤師も少なくないだろう.本書は,薬局,診療所,病院,また各専門領域それぞれの立場から,どのように薬物療法を考え,そしてどう医師と情報を共有し,実際の治療に反映させていくか,その具体的なプロセスや考え方を紹介している.本書を通じて,いまいち曖昧だった臨床における薬剤師の立ち位置が明確になるだろう.
薬剤師による処方提案の方法論として,私はEBM(evidence—based medicine)の手法を活用しながら医師との連携を模索してきた.そして薬剤師によるEBMを私と共に悩みながらも継続的に実践してきた本書執筆者の1人,黄川田修平氏が2017年9月に急逝された.私にとっては,尊敬する薬剤師であり,よき理解者でいてくれ,そして大切な友人であった.本書が「薬剤師にとってEBMが当たり前になる未来を作る」という彼の想いに,少しでも貢献することができたら幸いである.
2017年10月
本書を故黄川田修平氏に捧ぐ
青島周一