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書籍詳細

<暮らしの中の看取り>準備講座

<暮らしの中の看取り>準備講座

大井裕子 著

B5判 114頁

定価3,080円(本体2,800円 + 税)

ISBN978-4-498-05722-7

2017年10月発行

在庫あり

超高齢化社会を迎え,年間死亡者数は約10年後に30万人以上増えると言われ,地域(自宅や介護施設)での看取りが必須の時代を迎えます.ホスピスで多くの人と最期の時間を過ごしてきた著者が,「より良い看取り」を実現するコツをわかりやすく解説します.(実際の著者講演,「〈暮らしの中の看取り〉準備講座」の内容を元に構成しています.)

はじめに

 「安心しました.聞いておいてよかったです.」
 ホスピスや外来で出会う患者さんとこれからのことについて話し合ったあと,いわれることが多い言葉です.決して良いお話しばかりではない,今後の見通しについてお話しした後にも,安堵の表情でこんな風におっしゃることが多いのです.それは,今まで抗がん治療をしたかどうかにかかわらず,また,時には初めてお会いする方でも,なのです.

 「この先どうなっていくのでしょうか?」と聞かれたとき,援助者が安易に励ますだけでは会話がとても空虚なものになります.逆に全く心の準備がない状況で悪い情報を伝えられるだけではとても傷つき希望を失ってしまいます.仮に医師ではなくても,どんなことが心配だと思っているのかをじっくり聴いて,この先の会話を続けていくことができたら,患者さんは安心することができ,たくさんの人が救われるでしょう.相手が知りたいと思う情報を受け取りたいタイミングで誠実に伝えることが大切です.「安心しました.」という言葉の裏側には,たとえ厳しい道のりであろうとも,苦痛を緩和する方法があることを知り,それを実践してくれる人がいることを知り,そして何より自分の苦しみを理解してくれる人がいること,伴走してくれる人がいることを知った安心感があるといえるでしょう.

 団塊の世代がみな後期高齢者になる2025年には,5人に1人が75歳以上という高齢多死社会になり,これまでのように,体調が悪くなったら入院して病院で死を迎えるということが難しくなるといわれています.なぜなら,8割以上の人が病院で亡くなっている今よりも,年間に死亡する人の数は30万人以上増えるにも関わらず,病床数(入院できるベッド数)が増える計画がないからです.今以上に,病院ではなく地域(自宅や介護施設)で看取りをしなければならなくなります.

 そんな時代がやってくるのに,そこに携わる援助者(医療介護職や介護する家族)が看取りについて学ぶ場は十分とはいえず不安を抱えたまま看取りにかかわっているのが現状です.「看取り」はそんなに簡単なことではありません.死の瞬間に至るまで,そこにはその人の生活があり,次第に自分のことが思うようにできなくなる人の苦しみがあります.そのことを理解したうえで少しでも不安なく「看取り」を支えられる人が増えてほしいと思います.

 筆者は,ホスピスでたくさんの方と最期の時間をご一緒してきました.そこにはまさに,人生の最終段階にある人が経験するさまざまな苦しみがあります.どうにもならない現実の前に,解決できないことがたくさんあります.それでも,小さな希望や楽しみを見つけて穏やかに過ごす人もたくさんいます.どんなかかわりがあればそれが実現できるのか.仮に専門職でなくても,援助者として何ができるのか,ホスピスでのかかわり方は特別なことではなく,その中には地域で実践できることがたくさんあります.

 また,ホスピスで出会った何人もの患者さんから「こんな医療があるならもっと多くの人に知ってほしい」といわれてきました.それは決して治すためだけの医療ではなく,よりよく生きるためのケアという側面をもつ緩和ケアの考え方を踏まえた医療です.もっというと,本来の医療の枠を超えた部分の方が多いかも知れません.もはや完治が難しい状況においては,その人にとって正しい道はひとつではありません.本書では,援助者の方々に少しでも選択の多様性を知っていただくため,コラムの中で患者さんのさまざまなエピソードをご紹介したいと思います.こうして患者さんが残してくださったことがご家族や私たちの中に生き続けていると感じられることはこの仕事の魅力でもあります.

 本書は,2014年10月に実際に筆者が広島県廿日市市の一般市民とともに始めた「〈暮らしの中の看取り〉準備講座」の内容をもとに,構成されています.一般市民と一緒に「看取りとは?」から考え始めた講座は,老いて死を迎えることを自分のこととして考えることを大切にしてきました.次第に看取りに関心のある医療介護職にも広まり,地域で療養する人が増えるであろう「がんのこと」(ステップアップ講座〈1〉)「認知症のこと」(ステップアップ講座〈2〉)を学びながら,地域で最期まで安心して暮らすために自分に何ができるのかを,一般市民と医療介護の専門職が一緒にグループディスカッションをする場となりました.
 さらに,インフォーマルサービスとして具体的にできることを考え,「はつかいち暮らしと看取りのサポーター」※1として「食べること」(ステップアップ講座〈3〉)の意味を知り,「聴く力」(ステップアップ講座〈4〉)を養い,具体的な活動とするために実践的な学びを始めています.

 本書は皆さんが援助者として関心のあるところからお読みいただいても十分に学んでいただける構成になっています.
 地域での看取りについて改めて考えてみたい方は,どうぞ本書の流れに沿って学習を始めてみてください.きっと自分にもできることがあることに気づいていただけると思います.

*なお,本文中の「患者さん」という記載は対象者がわかりやすいように表記したため,介護施設の「利用者さん」や地域で暮らす「病気療養中の方」に置き換えてお読みください.

※1 2016年4月に発足.講座開催当日のお手伝いをはじめ,広報活動や具体的な活動に参加してくださる仲間.
   廿日市市およびその周辺地域に在住か勤務する一般市民と専門職から構成される.



おわりに

 本書では,看取りにかかわる医療介護職の方々が,仮にこれまで看取りの経験が少なくても自分にもできることがあることに気づき,気持ちにゆとりをもって援助できるように,筆者がこれまで実践してきたことをなるべくわかりやすい言葉で解説しました.
 しかし,最も大切にしたいことは,いつも「これからどうしていくか」を考える中心には患者さんがいるということです.患者さんを抜きにして周りだけで考えることなく,本人の思いはどうなのか? に常に立ち戻ることです.そして,ここに紹介した知識をもったとしても,患者さんやご家族が本当に必要としたときに情報を提供することです.そして,場合によっては,情報提供ではなく,ただじっと話を聴いてほしいことがあることも忘れてはいけません.それは,相手が苦しい胸の内を語ってくれているときです.
 知識や経験を積み重ねると,ついついアドバイスしようと相手の話を聴く前に説明や説得を始めてしまいがちですが,まずはじっと相手の言葉に耳を傾けてみましょう.そして,相手が苦しんでいるその気持ちをあなたにわかってもらえたと,相手が感じてくれたときに信頼関係が生まれます.そのときに,改めてもう少し詳しく知りたいと思いますか? と聞いてみます.
 筆者も医師になって20年以上の経験を重ねても,タイミングを見誤ってお話したことで相手を傷つけてしまうという苦い経験をしました.すべてを患者さんやご家族に伝えることが大切なのではなく,相手が知りたいタイミングにお話することが大切なのだと改めて痛感しています.
 本書がマニュアルとして独り歩きを始めることがないよう,あくまで援助者である皆さんの引き出しのひとつに加えていただき,ひとりひとりの困っている方のことばに耳を傾けていただくことを切に願います.

 さて,広島県廿日市市で始めた「〈暮らしの中の看取り〉準備講座」を受講した仲間の中から,実際に地域で最期まで安心して暮らすために自分にできることを一緒に考えるサポーターが誕生しました.この「はつかいち暮らしと看取りのサポーター」は,その職種や年齢に関係なく,地域でボランティア活動をしている一般市民も一緒に食べることの支援,苦しむ人の話を聴くことを大きな活動の柱として勉強会を繰り返しています.今後地域の中で,支えてくれる人,相談できる人がすぐそばにいるまちになっていくことを期待しています.

 最後になりましたが,本書をまとめるにあたり,全面的に支えてくださいました中外医学社の五月女謙一様には心よりお礼申し上げます.
 また,これまで臨床の現場での心のあり方や態度に至るまでご指導くださいました広島大学原爆放射能医学研究所腫瘍外科の諸先輩方,聖ヨハネ会桜町病院ホスピスでお世話になった山崎章郎先生,小穴正博先生,林裕家先生,三枝好幸先生ほか,聖ヨハネホスピスの仲間たち,そして「〈暮らしの中の看取り〉準備講座」の開催に向けてゼロから一緒に活動を作り上げてきた仲間である川本達志さん,泰田康司さん,山中陽子さん,そして講座の開催をお手伝いしてくださっている「はつかいち暮らしと看取りのサポーター」の皆さん,そして何よりも私にたくさんのことを教えてくださったこれまで出会った患者さんとご家族に,心より感謝申し上げます.

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目 次

はじめに

第1章 導入講座
最期まで輝いて暮らすためにまずは知ろう! 介護する側・される側のこころの叫び
 アイスブレーク「看取り」とは?
 看取りの場面で 自分は何か力になれるのか?
 緩和ケアとは
 近代ホスピスの創始者  シシリー・ソンダース博士
 全人的苦痛 苦痛の4つの要素
 緩和ケア 〜今,ここにある苦痛に目を向ける
 緩和ケア 〜本人と家族のケア
 人がいかに死ぬかということ
 がん治療と療養の場の選択
 緩和ケアと認知症
 人生の最終段階の身体機能の変化
 チームケア
 より良い看取りとは
 グループワーク 〜導入講座のふり返り・認知症の例

第2章 ステップアップ講座〈1〉
最期まで輝いて暮らすためにもっと知ろう!〈がんのこと〉
末期がんでも安心して地域で暮らすために地域のリソースを知る
 グループワーク 〜がんの例
 「自分だったら……」と,考えてみましょう
 在宅看取りが実現困難だと考える理由 1
 在宅看取りが実現困難だと考える理由 2 〜本人の気持ちと家族の気持ち〜
 在宅療養を支える職種
 在宅療養を支える制度
 在宅看取りが実現困難だと考える理由 3 〜急変時の対応への不安〜
 療養場所の選択肢
 がん治療を終えたあと 人生の最終段階における身体機能の変化
 この先起こること・援助者にできることを知る
 自然な最期 月の単位から日の単位,時間の単位の判断
 日の単位から時間の単位にできること

第3章 ステップアップ講座〈2〉
最期まで輝いて暮らすためにもっと知ろう!〈認知症のこと〉
認知症になった人から学び,考える
 「認知症本人の言葉」
 認知症の症状への対応
 軽度認知障害からアルツハイマー型認知症
 アルツハイマー型認知症の進行の流れと療養場所の変化
 インフォーマルサービスとは
 中核症状と行動心理症状(BPSD)
 ココが必要!インフォーマルサービスの充実
 思い出ブック

第4章 ステップアップ講座〈3〉
「食べること」の意味を知る 最期まで食を楽しむために
 人生の最終段階 身体機能と食べること
 食べられないと思われている人たち
 人生の最終段階の大切なとき「まだ食べられる時期」
 食べられない人の世界
 食べられない原因はいろいろなところにある 1
 食べられない原因はいろいろなところにある 2
 口から食べることの意味 〜患者の視点・家族の視点〜
 口から食べることの意味 〜患者と思いを共有する〜
 「食べられない」理由を4つの苦痛からアプローチ
 口から食べることの意味 〜がんの場合〜
 「食べられない」ある女性との会話
 「食べられない」ある男性との会話
 「食べられない」ある男性との会話 その後
 危ないから経口摂取をやめることは簡単 でもそれでよいのか?
 がんによる腸閉塞のときの考え方
 口から食べることの意味 〜患者・家族の視点と医療介護職の視点〜
 口から食べることの意味 〜重度認知症の場合〜

第5章 ステップアップ講座〈4〉
「聴く力」を養う 地域の誰もが聴いてくれるまちをめざして
 「聴くこと・聴く力」が役立つ場
 「聴く」ための基本姿勢
 ミラーリング法 1
 ミラーリング法 2
 ミラーリング法 3
 「聴く」ことを妨げるブロッキング
 ブロッキングの外し方
 「聴く」手順
 聴き方のコツ
 実際にやってみよう!
 ディグニティセラピー
 ディグニティセラピー実施への流れ
 「〈暮らしの中の看取り〉準備講座」で一般市民と行う「いきものがたり」

おわりに

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執筆者一覧

大井裕子 聖ヨハネ会桜町病院ホスピス科医長 著

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