序文
私は,1979年6月に故黒岩義五郎教授が主宰する九州大学神経内科の門を叩きました.その当時は,画質の悪いCT が出始めたときで,神経学的診察,いわゆるHammer Neurologyが盛んで,徹底して3-step diagnosisを教え込まれました.3-step diagnosisとは,1.解剖学的診断(anatomical diagnosis),2.原因的診断(etiological diagnosis),3.臨床診断(clinical diagnosis)のことで,病歴,診察所見から神経疾患を診断することです.幸いなことに,黒岩義五郎教授,後藤幾生助教授(のち九州大学神経内科教授),加藤元博講師(のち九州大学臨床神経生理教授),柴崎浩講師(のち京都大学神経内科教授),田平武助手(のち国立長寿医療センター研究所長),糸山泰人助手(のち東北大学神経内科教授),小林卓郎助手(のち九州大学神経内科教授)というそうそうたるメンバーに徹底して臨床的診察とその考え方を叩き込まれました.
臨床神経生理学(Clinical Neurophysiology)は,脳から脊髄,末梢神経,筋に至る広い範囲の機能とその病態を,生理学的に研究している学問分野です.CTのはしりの頃は,脳波,誘発電位による病態生理の解明が一番盛んな時でした.その後,臨床現場では,CTやMRIなどの画像検査の進歩により,脳の形態的な検査が重要視されています.しかし,機能的な面を検査する臨床神経生理学的な検査も忘れてはならない検査です.逆に形態検査で異常所見が検出されない時に,臨床神経生理学的な検査はその威力を発揮します.
本書では,私が考えるベッドサイドの臨床神経生理学をできるだけ,わかりやすく解説しました.ベッドサイドでよく使われる脳波,筋電図,誘発電位などの原理とその意義を概説したあと,どうすれば,3-step diagnosisの助けとなるのか,そのポイントをまとめました.これにより,神経生理学的手技の基本的な事項から検査のコツ,所見の捉え方,臨床応用までを一冊で「俯瞰」できるようになりました.本書が,神経内科医,脳外科医,精神科医,臨床検査技師などの方にお役に立てば幸いです.
なお,本書の企画・編集でお世話になった中外医学社,企画部・岩松宏典氏のご協力により,この本は完成しました.この場を借りて感謝申し上げます.また,資料の収集・整理を手伝ってくれた秘書の小笠原史織さんに厚く御礼申し上げます.
2017年初夏
九州大学大学院医学研究院・臨床神経生理学分野
飛松省三
謝辞
稿を終わるにあたり,臨床神経生理学を教えていただいた恩師の九州大学名誉教授・加藤元博先生に厚く御礼申し上げます.また,神経内科医からこの道に行くようご示唆いただいた故黒岩義五郎九州大学名誉教授にも感謝申し上げます.今回このような形で「ベッドサイドの臨床神経生理学」を上梓できたのは,九州大学大学院医学研究院の臨床神経生理学分野,神経内科学分野ならびに九州大学病院中央検査部脳波室の関係諸氏のお陰です.この場を借りて御礼申し上げます.