はじめに
今この本を手にしてくださっている皆さんは、開業を志されている医師あるいは、開業して日も浅い医師の方々でしょうか。私が兵庫県西宮市樋之池に最初のクリニックを開業したのはこの本を書いている現在、2016年から8年前になりますが、当時、クリニック開業に関するノウハウ本はほとんどありませんでした。お陰様で今でこそ順調に患者さんも増え、私の専門とする耳鼻咽喉科クリニックを4院開設し、2016年秋には小児科と耳鼻咽喉科をコラボしたクリニック1院、計5院をオープンするまでに至りました。また、私生活においては趣味であるフルマラソンやトライアスロンを完走したり、最愛の家族と国内外の旅行に出かけたりキャンプをするなど、自分自身の生活もエンジョイしています。
とはいえ、開業準備期から今まで何も悩むことなく、何も失敗することなくクリニック経営が順調に発展してきたわけではありません。さまざまな失敗を経験し、一つひとつ問題を解決しながら、ようやくここまで来られたと思っています。詳しいことはすでに発刊されている『経営学を学んでいないドクターのためのクリニック成功マニュアル』に譲りますが、この本ではクリニック経営を成功するためのキーポイントや、開業してから3年目までに行うべきだと思うことを私の経験から具体的に書かせていただきました。
なぜなら、これから開業される医師の皆さん、開業間もない医師の皆さんが、この本を通じて私が8年で体験したことや学んだことを知り、できるだけ失敗なしでショートカットして経営を順調な軌道に乗せることができたらいいな──と願っているからです。
こうして私が皆様方にこのようなお話ができるようになったのも、ひとえに自分自身に、開業してからの礎というものが出来上がったからだと思っております。
よく、自分自身の心の中のコップが満たされていないと、その溢れた分を人に対して与えることができないといわれますが、自分自身のコップが満たされているからこそ、このような形で本を書こうという気持ちになったり、あるいはクリニックの見学を受け付けることができる心の余裕というものがあるのではないかと思います。
開業当初はただただ日々、医院の運営が成り立って行くのか、借金を返済することができるのか、いろいろな不安が綯い交ぜになっていましたが、そういったステージから上に来ることができたからこそのお話であり、決して自分が聖人君子というわけではなく、コップの水ということを考えれば、自分自身がこのような形で広く貢献できることは望外の幸せであります。
もちろん、開業医がすべてではありません。勤務医として臨床を極める、あるいは医学教育に邁進する、研究に没頭する──そういった選択肢もあろうかと思います。しかし、勤務医として臨床を極めていくうちに、どこかのタイミングで開業を考えるときがくるかもしれません。また、現にこの本を手に取ってくださっている皆さんの中には、すでに開業を目指している方もいらっしゃるかもしれません。私は、そのような皆さんに、実際に開業というのはどういうものなのか、開業までや開業してからの経過はどうなのか、開業する場合の注意点は何か──などについて、私が思ったまま、感じたままを率直にお伝えしようと考えています。この本を読んでいただき、開業することのメリット・デメリットも含め、包括的に開業とはどういうものかを理解をしていただき、ご自分自身で開業するか否かを決定するための材料となればとも考えています。
そして、私自身にとってのこの本は、単に私自身が開業医として充実した生活を送るだけでなく、医師としても経営者としても成功された皆さん方と、開業医同士のコミュニティーをつくり、医療業界を取り巻く社会情勢をはじめとする諸問題の解決や医療情報の交換、医療技術の研さんを育むこととともに、大きくは、同志の皆さんと日本の将来を語り合っていくきっかけになってほしいと願っているからでもあるのです。
こうして出版を通して全国の先生方とご縁をいただいていることに本当に感謝しています。
2017年5月
医療法人 梅華会グループ 理事長
梅岡耳鼻咽喉科クリニック 院長
M.A.F主催者
梅岡 比俊