序にかえて
最近,AI(artificial intelligence)が医学・医療の分野にどのように関わってくるのか,近い将来我々医師の仕事もAIにとってかわられるのではないかなど,関心をもって語られています.AIによる診断と治療には,診療指針に則った多数の症例蓄積(mega data base)が必要で,そう簡単に臨床応用されないのではないかと思っていますが,いつの日にか一緒に診察する日も来ると期待しています.AIを用いてロボットが行う診療と我々医師が行う診療の大きな違いは何かというと,「患者さんへの思いやりと手のぬくもり」ではなかろうかと思います.しかし,最近の私たちは電子カルテに集中するあまり正面から患者さんに向き合うことが少なくなっているような感じを受けています.
そこで今回,医師と医学生のために必要な症状・症候・不定愁訴,検査異常値から診断へと導くナビゲーションを「内科外来診断navi」として上梓することになりました.執筆にあたっては,まず監修者の私が各分野で優れた業績をあげておられる8名の先生に分担編集をお願いし,次いで各分担編集者から分担執筆者をご推薦いただきました.ご多忙のなか,ご協力をいただいた皆さまに厚く御礼申し上げます.執筆者には,豊富な知識・技術を生かし初期臨床研修医をはじめとする若手医師や医学生が実践の場を想定して,活用できるようにわかりやすく記載していただきました.各項目ともフローチャートを使用して定義とメカニズムを解説し,臨床指針を示しました.臨床研修医や医学生が診療の思考プロセスを身につけることができるよう解説している点が特長です.そして,こうしたナビゲーションをしっかり理解することで余裕が生まれ,心温まる診療へつながるのではないかと思っています.しかし,記載が内科全般にわたるため,執筆の過不足があろうかと思われますので,皆さまの忌憚のないご意見を願っています.
最後に,本書の上梓にあたりご協力いただいた中外医学社の皆さまに深謝いたします.
2017年 初春
都庁を眺めつつ
富野康日己