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書籍詳細

老年医療を通じて知る老化の予防

老年医療を通じて知る老化の予防

山本 章 著

A5判 254頁

定価(本体2,000円 + 税)

ISBN978-4-498-05912-2

2016年06月発行

在庫あり

総合診療の重要な一分野である老年医療について,豊富な経験とエビデンスをもとに解説したガイドブック.「経験に学ぶ老年医療」「経験から科学する老年医療」の3部作.

序 文

 筆者が介護老人保健施設での仕事を始めて20年の節目となり、年齢も84歳、今年で8度目の申年を迎えました。積極的な研究生活を離れ、高齢者医療に没頭すること20年、嘗ての専門分野の仕事を振り返る機会が少なくなった替わりに、広く文献を読み漁って家庭医療・総合医療の醍醐味を感じ取っています。そして、病気が、受けた人の体質や環境によって、如何に大きな爪あとを残すものであるかを知り、若いうちに、あるいは老いが迫らぬうちに感染症の影響を少なく押さえ、その爪あと(後遺症)を消し去っておくことが健康で長生きするために如何に重要であるかを理解することが出来ました。
 筆者が大学を卒業した当時は、医師免許を貰う前の1年間インターンを務める必要があり、筆者は当時阪大に生まれたばかりの中央臨床検査科に出入りする機会を得ました。そこで出会えたのが当時の検査科主任の福井定光先生(昭和13年卒業、第1内科講師、後の奈良医科大学内科教授)で、暇あるごとに先生から色々な経験話を聞けて、その博識に驚かされました。別の先輩からは軍医としての体験「南洋の島で下痢患者に、捥ぎ取ったばかりの椰子の実から果汁をとって静脈注射し、水と栄養補給に役立てた(地上に落ちた実を使うと悪寒戦慄が起こる)」といった話も伺いました。これは今の高カロリー輸液の走りと云えます。当時(昭和30年)は既に循環器、消化器など内科の専門分化が始まっていたのですが、経験ある先生方は広い目で患者を診ておられたし、中検では所属する科が違っても(むしろ違っている方が)気楽に話が出来たのです。
 専門分化が進むとともに、医師は各分野の専門家を自負するようになったのですが、検査機器の発達に伴って専門の技師・研究者として働く時間が長くなり、医師として心身(からだ)を診ることは疎かになり、ついには自分の狭い領域以外の患者は診ないようになってしまいました。ただ、阪大では第1内科が専門分化を速く進めたのですが、筆者の所属していた第2内科はもともと出先に中小病院が多かったのと、当時の主任教授であった西川光夫先生が総合的に診ることを強調されたこともあって、分化は緩やかでした。筆者らが、コラルジルという心臓薬の副作用(薬がマクロファージに蓄積して起こる、我々の専門域ではdrug-induced lipidosis と呼ぶ病態)を発見して早く解決に導き得たのも、消化器、循環器、血液、そして独立したばかりの我々の脂質代謝のグループが連携して仕事が出来たからでした。筆者が国立循環器病センターに移ってからも総合医療を忘れなかったのは、家族性高コレステロール血症の治療のためにアフェレーシス療法の開発をしていたからです。アフェレーシス学会は神経科や皮膚科領域の自己免疫疾患に関する知識を得るこの上なく有り難い場所でした。
 昭和40年代、大学紛争のあった時代には、筆者は病態解明・治療法の進歩のいずれのためにも、内科の専門分化は必然と考えていました。しかし、当時多くの人々と違っていた点があります。それは、研究室と医局を別の構成にすることでした。大学や研究所の医師は、病因・病態解明や医療機器開発などの区割りによって研究を進める一方、医局では循環器、消化器といった臓器別編成の中で話し合いながら診療に当たることです。こうすれば、たとえば胃カメラの開発に当たる医師は、眼科の医師とも話し合える場を持ち、自己免疫疾患を診る内科医は違った臓器の専門医と一緒に研究の場を持つことが出来ます。この発想には、アメリカ留学中、隣の机で皮膚科の医師が働いていたという環境や、当時の阪大の3つの内科の教授が、?専門分化推進、?総合診療重視、?基礎研究重視の3つの異なる考え方を持っておられたことの影響がありました。スタチンの発見で日本賞を受賞した遠藤章博士がコレステロールを下げる薬の探索に精力を傾けたのも、アメリカ留学時代に同じ研究室に循環器の医師がいたからと聞いています。
 この序文のあらがきを考えている最中(平成27年10月)、TVで美術書家の篠田桃紅さんの話を拝聴し、また、翌朝の新聞で「マンション傾斜問題は多層下請けの死角、数十社参加で業務は細分化」という記事を読みました。篠田さんは103歳で今なお創造的芸術に励んでおられます。男性で100歳を超えても仕事に励む人は何人もおられますが、女性でここまでやれる反骨の人は珍しい。健康寿命を伸ばすには、「女性の男性化(社会活動への積極参加)が必要」は最終章に書きましたが、まさにこれにふさわしい例といえます。TVで篠田さんが言っておられた言葉に惹かれました。「部分的な構成に一つ一つ正確さや規格を合わせることは出来ない。一つ一つは不完全であっても全体として『自分の思い』を捉えていれば良いのだ」という意味の言葉であったと覚えています。これは総合医療に通じるところがあります。生物の身体やその変化を微に入り、細に入って完全に把握することは出来ません。生体反応の本質はブラックボックスで、我々医師はその入口と出口で信号を捕らえて判断しているだけなのです。そこに経験の働く意義があります。日本で専門分化が急速に発展し始めて半世紀、我々はそろそろ医者らしい病気の捕らえ方を取り戻す必要があります。
 高齢者医療は(そして一般の医療も)決して生産性に繋がるものではありません。それはquality of life、あるいは生命の尊厳性に係わる問題です。動物である象も最後まで決して家族・仲間を見捨てようとはしません。高齢者の病気に取り組むことによって、如何にして元気で、長生きしてもらえるかという、必ずしも両立しない問題についての智恵を授かることが出来ます。この冊子「老年医療を通じて知る老化の予防」を以って、これまで書いた「経験に学ぶ」、「経験から科学する」を含む3部作の締めくくりとするつもりです。

 平成28年3月17日筆者84歳申年の誕生日
 山本 章


偶感

最近しきりと「おもてなし」の言葉が使われ、日本を売り込む標語となっている。筆者はそれが商売・儲けの手段と化していることを恐れる。人の和にとって本当に必要なのは「気配り」である。引っ越しを手伝う運送業、少し間違えば大惨事となる、あるいは命にかかわる職業など、口先のお愛想が通用しない場でこそ「気配り」は生きて働く(第6章第2項165頁参照)。

国立循環器病センターを定年退職した後、約20年にわたって老人保健施設での医療に携わり、その間の経験を、先著「経験から学ぶ老年医療」、「経験から科学する老年医療」に続いて、今回の著書「老年医療を通じて知る老化の予防」に綴ることができました。これは一に、先祖から受け継いだ仕事への情熱と環境からの指導と支援、そして2つの老健(箕面市立介護老人保健施設と尼崎介護老人保健施設ブルーベリー)のすべての職種の方々の医療・介護への努力を通じていただいた刺激の賜物として感謝しています。


謝辞
一連の著書の発刊に協力いただいた秀島悟さん他、中外医学社の皆さん方、同僚医師内藤正敏、山崎紘一両氏と、普段の研究活動や著作の編集に働いていただいた秘書の天羽仁美さんのご助力に感謝します。

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山本 章 略歴

昭和7年生まれ。昭和30年大阪大学医学部卒業。35年大学院医学研究科終了、医学博士。阪大病院第二内科学教室で脂肪肝の研究に取り組み、昭和38年「肥満外来」を開始。昭和39〜42年米国カリフォルニア州City of Hope Medical CenterのGeorge Rouser博士のもとで脂質分析の開発研究。42年に大阪大学に復帰して「高脂血症外来」を開設。昭和54年国立循環器病センター研究所病因部長、平成元年同研究所副所長となり、「動脈硬化に関連した血漿リポ蛋白異常の遺伝素因と栄養の関連についての研究」を推進した。平成7年定年退職、平成8年から箕面市立介護老人保健施設施設長として高齢者の介護と医療に従事する傍ら、国立循環器病センター研究所名誉所員としてこれまでの動脈硬化に関する研究を老年医学の場に広げてきた。平成21年4月から尼崎介護老人保健施設ブルーベリーに移り、現在同施設の管理医師・施設長を勤める。日本アフェレーシス学会理事長、日本動脈硬化学会理事、国際アフェレーシス学会理事長、アジア太平洋動脈硬化学会理事長などの役職を歴任、平成11年度日本動脈硬化学会大島賞受賞、2004年度国際アフェレーシス協会Cohn de Laval Prizeを受賞。

編著書
「血清脂質─その臨床、基礎、分析法」(中外医学社、1981)
「脂質代謝とその異常」(中外医学社、1985)
「トリグリセライド、HDLと動脈硬化」(フジメディカル出版、2001)
「コレステロールを下げる」(中外医学社、2008)
「脂質代謝の研究から老人医療の現場まで─時代の流れに生きたある医師の回顧」(中外医学社、2008)
「心にゆとりを、言葉にユーモアを─老健で働くある医師からのメッセージ」(中外医学社、2008)
「経験から学ぶ老年医療」(中外医学社、2010)
「ゆとりなき社会への提言─自律・自戒なき自由と、総合的思考を欠落した専門分化は文明を亡ぼす」(中央公論事業出版、2012)
「経験から科学する老年医療」(中外医学社、2013)

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目次


第1章 老化と病気、老化の予防
 (1) 老化と寿命
 (2) 老化のメカニズムを知る
 (3) 白寿者に学ぶ
 (4) 高次機能の老化、βアミロイドの蓄積と認知症

第2章 器官の老化
 (1) 心臓・血管系の老化
 (2) 筋肉と神経系の老化
 (3) 感覚器、皮膚、内分泌器官の老化
 (4) 造血機能の老化

第3章 免疫を守れ:健全な精神は健康な肉体に宿る
 (1) 寿臓:神が人間に与えなかった臓器
 (2) 風邪は万病のもと
 (3) 感染制御機構とその老化
 (4) 糖尿病は潜在的な老化促進因子

第4章 体内に宿る自然環境を大切に
 (1) 進行する薬剤耐性菌の脅威:MRSAとESBL産生腸内細菌
 (2) かく乱された自然環境は誰が守る
 (3) 腸内細菌との共棲は健康の基
 (4) 代謝・免疫から神経機能へ:広がる腸内細菌叢の関与

第5章 老化を防ぐ運動と休養
 (1) フレイル:「こけやすい」と「虚弱」
 (2) 痩せ・浮腫・息切れ・視力の低下に体力の限界を知る
 (3) 和温を試そう
 (4) 睡眠は健康の基:休養は充電なり

第6章 老化の予防は「営み」で
 (1) 老化と精神活動:性は精に通じる
 (2) 精力(性力)の元は頭脳にあり
 (3) 考えながら働き続けることが老化の予防につながる
 (4) 料理の奨め:栄養こそリハビリの基本

第7章 終わりに
 (1) 学び、考え、次世代に賭けるゆとり、下流を大切に
 (2) 健康寿命を延ばす意義
 (3) 価値ある人生とは何か、哲学こそ科学の基本である


補遺1 ESBL産生大腸菌拡散のリスクファクターと抗菌薬治療
 1)高齢者施設における耐性菌検査の重要性を認識する
 2)施設におけるESBL産生大腸菌感染症の治療についての結果要約
 3)ESBL産生大腸菌感染症の治療に用いられる抗菌薬についての考察

補遺2 総合医療の推進と保健所再構築

索引

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執筆者一覧

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