序
臨床神経生理学(Clinical Neurophysiology)は,脳から脊髄,末梢神経,筋に至る広い範囲の機能とその病態を,生理学的に研究している学問分野である.脳・神経・筋の機能解明のための学際的な分野が一体となって,ヒトの神経系を中心とする複雑なシステムの研究を推進し,神経・精神疾患の諸問題に直結した臨床的な研究を行っている.
1920年代末に脳波と筋電図がヒトで初めて記録されて以来,その理論的側面,検査法およびその臨床応用が急速に発展した.1940年代からの誘発電位,1960年代中頃からの事象関連電位,1960年代末からの脳磁図,さらに1970年代後半からポジトロンCT(PET),1990年より機能的核磁気共鳴画像(fMRI)などの脳機能イメージング検査が開発され,これらの手法が脳科学的な研究および臨床に用いられるようになってきた.
臨床現場では,CTやMRIなどの画像検査の進歩により,脳の形態的な検査が重要視されている.しかし,機能的な面を検査する臨床神経生理学的な検査も忘れてはならない検査である.逆に形態検査で異常所見が検出されないときに,臨床神経生理学的な検査はその威力を発揮する.
本書では,各検査法の「基本を知りたい」,「ここが知りたい」など初学者が手に取りやすいようなボリュームで,通読することが苦にならない臨床神経生理のテキストを目指した.そのために,臨床神経生理学の分野の第一線で活躍されている先生方に玉稿を賜り,各節2〜4頁で,そのエッセンスを解説してもらった.これにより,臨床神経生理学の基本的な事項から検査のコツ,所見の捉え方までを1冊で「早わかり」できるよう,平易でポイントをおさえた表現となった.本書が,神経内科医,脳外科医,精神科医,臨床検査技師などの方にお役に立てば幸いである.
なお,本書の企画・編集でお世話になった中外医学社,企画部・岩松宏典,編集部・高橋洋一氏のご協力により,この本は完成した.この場を借りて感謝申し上げる.
2016年春
九州大学大学院医学研究院・臨床神経生理学分野 飛 松 省 三