序
「尿路結石」は泌尿器科医として日常診療で避けて通ることができない疾患のひとつです.その理由は疾患の頻度が高いこと,および専門的知識と技術に基づく診断と治療が必要となるためで,これは泌尿器科専門医のみならず救急医や一般医家にいたる共通認識であると思われます.
1984年に我が国にも導入された体外衝撃波結石破砕術(ESWL)は尿路結石の外科的治療に大変革をもたらしました.また,医療工学やICTの進歩は画像装置や内視鏡および周辺機器の革新を起こし専門性を高めています.
近年,多くの診療ガイドライン(GL)が刊行され大いに活用されています.尿路結石症診療ガイドラインは日本泌尿器科学会公認の最初のGLとして2002年12月に発刊され,2013年9月に書式をClinical Question形式に全面改訂した第2版が刊行されています.GLはエビデンスの相対評価,益と害のバランスなどから患者と医療者の意思決定を支援するため推奨を提示していますが,実臨床で遭遇するすべての事例や最新の情報が必ずしも網羅されているわけではありません.また,個々の内容については深く言及されていないことも稀ではありません.
一方,海外においては既刊のGLに加え2014年米国泌尿器科学会(AUA)がMEDICAL MANAGEMENT OF KIDNEY STONES: AUA GUIDELINEを刊行するとAmerican College of Physicianや欧州泌尿器科学会(EAU)も追随してGLを発刊して予防医学の視点を含めた尿路結石のトータルマネージメントに対応するようになりました.
このような背景から尿路結石について知っておくべき基礎知識から汎用性が高い診療の実践的な内容が網羅され,日常診療で遭遇する問題点や疑問点を解消するプラクティカルな書が要望されていました.今回,世界に多くの情報を発信している日本の尿路結石研究と診療のエキスパートの先生に可能な限り平易な言葉と多くの図表および写真を提示していただき,手に触れやすく,理解しやすい書としていただくとともに,?専門家が行っている診療や治療の技術:「エキスパートのポイント」,?初学者が陥りやすい:「PITFALL」,?プラスαとして:「SideMemo」などを記載していただき内容の充実を図りました.
医療はより低侵襲かつ費用対効果をも考慮した診断・治療ならびに指導の選択が必要な時代に突入しています.本書が尿路結石診療においてその一助となることを心から願っています.
ご推薦のお言葉を賜った日本尿路結石症学会理事長 市川智彦先生ならびにご執筆いただいた先生方と企画・出版にご協力をいただいた株式会社 中外医学社の鈴木真美子様はじめ関係各位の皆様に深甚の謝意を表します.
2016年3月
宮澤克人