はじめに


　本書はわかりやすく実践しやすい大腸内視鏡の挿入法テキストです．今までどこでどのテクニックを使うかが不明瞭で，パターン化に終始していた感がありますが，本書は「今先端はここにあるから，この技術を使い，先端はここに進む」と検査の流れを明確に記載し，挿入をマニュアル化したため，大腸内視鏡経験のない研修医や開業医にもわかりやすくなりました．また，随所にオリジナリティーのあるテクニックを公開しましたので，ベテランにも参考になるでしょう．
　本書では成書ではじめて無痛大腸内視鏡「水浸法」を紹介します．水浸法はもともと押しの要素のきわめて少ない苦痛のないすぐれた検査法でしたが，指導書がない，煩わしい，時間がかかるなどのためあまり普及しませんでした．今回，電動ポンプ，アタッチメント，スコープ選択システムなどの改良により短所が消え，押さないから痛くない，穿孔事故も起きないことの他に，修得が容易，挿入率が高いなどの長所が十分生きるようになりました．
　また，水浸法という挿入原理に最適化した挿入技術として「ワンパターン・メソッド」を紹介します．これは挿入法を高度にマニュアル化したものです．今まで管腔を見えるままに受動的に挿入していましたが，人間もモデルと基本的には同じと考え，能動的に腸管をコロンモデルに帰着させて挿入する考えです．水浸法では空気を入れず腸管が虚脱していますので，スコープの先端を粘膜の襞にフックして早い段階で腸管を丁寧に手前に引いてくれば，腸が長くて捻れていても結局短縮され，いくつものパターンに分類しなくてもすべてワンパターンで入っていきます．さらに水浸法とワンパターンメソッドを成功しやすくするいくつかのスペシャルテクニックも公開します．
　ワンパターンメソッドはコロンモデルを使って初心者でも簡単に短期間で修得できます．本書では徹底してルール化，マニュアル化してありますので最短で3カ月で大腸内視鏡がマスターできると思います．


2016年2月
新宿大腸クリニック 院長　後藤利夫

この本の使い方


　個人差はありますがだいたい週5日で3カ月でマスターすることを目標にしています．週4日なら4カ月，週3日なら6カ月，週2日なら10カ月，週1日なら2年が目安です．
　STEP 1理論編で，水浸法とワンパターンメソッドの理論を理解をします．ここまで週5日で1週間が目安です．
　STEP 2トレーニング編は，コロンモデルで練習します．最初は1回入れるのも大変ですがなれてくれば毎回同じ入れ方で入るようになります．3分を切るまで何回も練習します．ここまで週5日で1カ月が目安です．
　STEP 3実践編では最初，指導医の無線教習を10人ほどやります．その後指導医のもとで実践します．だいたい100例でほとんど挿入できるようになり，ポリペクトミーにも自信がついたら独り立ちです．ここまで週5日で3カ月が目安です．
　STEP 4挿入困難の解決編では，挿入困難をいくつかのパターンに分けて説明しました．
　STEP 5ポリペクトミー編ではポリペクトミーのワンパターンメソッドを紹介しました．
　修得が難しいとされる大腸内視鏡の挿入がどうしてこんなに短期間に可能なのでしょうか？コロンモデルを十分活用し，人での経験不足を補います．また経験に頼らなくてもよいワンパターンメソッドは修得が容易です．人で1,000例を行うのは何年もかかりますがコロンモデルなら1カ月でできます．人で100例しかしていなくてもコロンモデルの経験があるから1,000例の人を上回る上達をします．実際，このやり方でトレーニングするとあまりに短期間で上達するのでベテラン医師が驚くほどです．
　この本にはDVDはつきませんが，インターネット上に動画を用意しました．
　http://suishinho.com
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　パスワード：※※※※
で見ることができます．この本の解説を参考に動画を参照してください．インターネット環境のない方は本書のカバーの端のDVD引換券を切り取り，返信先の住所を書いて下記まで送ってください．無料で本書のムービーを収録したDVDをお送りします．
〒151-0053　東京都渋谷区代々木**********　後藤利夫
　本書の内容についてのご質問・ご感想はインターネット掲示板もしくは直接著者までメールしてください．いつでもお答えします．
　http://suishinho.com:591/opinion/
　******@mx2.nisiq.net

目　次


●この本の使い方●

STEP 1　理論編
　1．水浸法は痛くない
　2．水浸法は腸を伸ばさないから痛くない
　3．腸を伸ばさない押し方と引き方
　4．従来の挿入法―プッシュ法とプル法―
　5．水浸法の新しい挿入法―早期短縮―
　6．早期短縮を可能にするフック法―先端フック―
　7．水浸法ではワンパターンで挿入できる

STEP 2　トレーニング編
　8．スコープの持ち方のトレーニング―スコープは手のひらに乗せるだけ―
　9．アングル操作のトレーニング―ロックトゥーロックができるか？―
　10．スコープ位置の表現法―「左手9時・先端6時」とは？―
　11．2倍進角の法則―先端角度は見なくてもわかる―
　12．ローテーション操作のトレーニング―ローテーション720度ができるか？―
　13．プッシュ法とループ解除―これさえできれば深部挿入できる―
　14．ループ解除の理論（ループ最小円理論）―ループ解除はこうやる―
　15．2つのループ判定法―ブラインド法と定点固定法―
　16．ワンパターンメソッドのトレーニング
　17．ワンパターンメソッドのシミュレーション―指内視鏡で覚える―
　18．コロンモデルで3カ月でマスターする―コロンモデル10倍則―
　19．20秒で挿入！―私のコロンモデルの模範演技―
コラム(1)
コラム(2)

STEP 3　実践編
　20．水浸法ポンプの作り方・使い方
　21．水浸法の管腔のみつけ方
　22．先端アタッチメントの使い方
　23．硬度可変スコープの使い方
　24．正しいスコープの選び方―スコープ選択基準―
　25．検査前準備―勝負に勝つために―
コラム(3)
　26．ヒトもワンパターンで挿入する―コロンモデルとヒトは同じ―
　27．直腸のワンパターンメソッドとスペシャルテクニック
　28．S状結腸のワンパターンメソッドとスペシャルテクニック
　29．SDのワンパターンメソッドとスペシャルテクニック
　30．脾彎曲のワンパターンメソッドとスペシャルテクニック
　31．横行結腸のワンパターンメソッドとスペシャルテクニック
　32．肝彎曲のワンパターンメソッドとスペシャルテクニック
　33．部位別ワンパターンメソッドとスペシャルテクニックのまとめ
　34．ある日の内視鏡動画1日目―症例1　症例2　症例3―
　35．ある日の内視鏡動画2日目―症例1　症例2　症例3―
　36．ある日の内視鏡動画3日目―症例1　症例2　症例3―
　37．ある日の内視鏡動画4日目―症例1　症例2―
　38．同一患者のスコープによる挿入法の違い―1回目CF　2回目PCF-P　3回目PCF―
　39．最も古い水浸法動画

STEP 4　挿入困難例の解決
　40．挿入困難のパターン1―ループ解除が困難な人―
　41．挿入困難のパターン2―やせた人、癒着のある人―
　42．挿入困難のパターン3―メガコロンの人―
　43．挿入困難のパターン4―前処置不良の人―
　44．挿入困難のパターン5―スパスムの強い人―
　45．挿入困難のパターン6―痛みの訴えの強い人―
　46．挿入困難の動画1―S状結腸の癒着の強い例―
　47．挿入困難の動画2―前処置不良の若い女性―
　48．挿入困難の動画3―癒着のある小柄な高齢女性―
コラム(4)
コラム(5)

STEP 5　ポリペクトミー
　49．時間をかけない観察法とポリペクトミーの選択
　50．大きいポリープも出血しない高周波の設定法
　51．ワンパターンで高速ポリペクトミー
　52．出血させないホットバイオプシー
　53．1発で上げるEMR
　54．効率のよいクリッピング

全国の無痛大腸内視鏡「水浸法」の病医院

おわりに

索引


略語について
直腸（Rectum） R
S状結腸（Sigmoid colon） S
S状結腸頂部（Top of sigmoid colon） S頂部（S-top）
SD接合部（S-D junction） SD
下行結腸（Descending colon） D
脾彎曲（Splenic flexure） Sp
横行結腸（Transverse colon） T
横行結腸中央部（Mid transverse colon） T中央（mid-T）
肝彎曲（Hepatic flexure） Hp
上行結腸（Ascending colon） A
盲腸（Cecum） C

執筆者一覧

後藤利夫　　著