はじめに
ワシントン大行進で,マーティン・ルーサー・キング・ジュニア牧師が「I Have a Dream」で始まる人種平等と差別の終焉を呼びかけた演説を行い,アメリカの公民権運動に大きな影響を与えた話はあまりにも有名ですが,私にも夢があります.それは,何らかの形を通して「この日本を明るく元気にする」という夢です.
最近のニュースを見ていると,日本の未来に対するポジティブなメッセージが非常に少なくなってきています.いや,むしろネガティブなメッセージばかりが私たちに伝わってきているように思います.ざっと挙げても,銀行の減少,超高齢化社会,膨大な日本の財政赤字といった社会環境問題や,ちまたでは無差別殺人事件や連続放火事件など,暗いニュースばかりが流れてきているように感じているのは私だけでしょうか?
私も社会人となって結婚し,そして子育てをしていく中で,自分の子どもたちの10年後,20年後,30年後,そして日本の将来を考えたとき,昨今の状況を決して楽観視はできないと感じています.そうした中で,1人の人間としてはどこまでできるかわかりませんが,自分自身の使命といいますか,本当にやりたいことは何だろうかと突き詰めていくと,どんなに小さな一歩でもいいから,まず今,現に身を置いているこの医療という現場で何らかの形で社会貢献したいと考えるようになりました.
今までは漠然と行っていた診療という行為の根底にある自分の使命というものが見えてきた時に,私の心は晴れやかになってきました.そして,患者さん,特にお子さんたちが症状を悪化させてクリニックにやって来た時に,しっかりと適切な治療を施し,安心と元気を与え,明日からの日々の活動に復帰してもらいたい──そう願い,患者さんたちに対して心を込めた働きかけを日々積み重ねることによって,私の夢,日本を元気にすることが叶うのではないかと,そう思うようになりました.
考え方は人それぞれかもしれませんが,自身の診療を通して,患者さん,ひいては日本を元気にするという考え方を持つことで,私自身の日々の仕事のやりがいは支えられています.使命にそって一貫性を持って生きる──そう決めた後はあまり小さなことに捉われなくなったように感じています.
想い返せば,私が開業した7年前,クリニックの運営・経営,そういったことを専門とする著書はほとんどなく,私は一般的な経営に関する書籍を何冊も読んだり,時間をかけて何人もの先生や先輩方のお話を伺い,こつこつ,こつこつと学ばなければなりませんでした.誠に手前味噌ではありますが,本を読んで開業医のモデリングを疑似体験することでクリニックの運営のポイントをわずか3時間で学べるのが本書です.
この本を出版し,私自身が今まで開業してから歩んできた道をこれから開業しようとされている皆さん方とシェアすることによって,少しでも何かしら感じ取ってくださったり,学びとってくださったとすれば,この上なく幸せに思います.なぜならば医師という職を通して独立開業するというプロセスにおいては,誰もが同じ道を歩み,同じように感じ,同じようなところで失敗して,同じように乗り越えていく……,そう私は感じているからに他なりません.
どうせ同じところで同じ失敗をするのであれば,事前の予測と予備知識をもって問題に対処できれば深い傷を負わなくて済む,あるいは簡単にその山を乗り越えられると思うからなのです.さらに,開業したクリニックがそれぞれの患者さんを元気にしていくことで,日本全体が元気になると信じているからなのです.
学ぶということは単に知識を手に入れるだけではなく,実行することであり,テストを繰り返し,さらによりよき成果を得るということです.この本の中に,皆さん一人ひとりの琴線にふれるものが何かしらあり,この本がよりよい方向性が見えるきっかけになればとても嬉しく思いますし,同時に自分自身も7年の努力で得た業績は,10年後,15年後にはおそらくさらに加速して成長するものだと確信しています.
人ひとりの頭の中の思考回路というのはたかだか知れているものかもしれませんが,同じように前向きな新しいことに挑戦し,開業医としてより地域に貢献していこうと考えていらっしゃる同志の先生方とのコミュニティーを通して,もっともっと医療人として社会貢献できたら最高に幸せだと考えています.それは梅華会がミッションとしている「医療を通して日本の未来を明るくすること」に繋がっていくことだからです.
本書を読まれた皆様が何かヒントになるようなことや気付きがひとつでもありましたら,著者としてこれに勝る喜びはありません.
2016年1月
医療法人社団 梅華会 梅岡 比俊