脳出血・くも膜下出血診療読本
豊田一則 編著 / 高橋 淳 編著
A5判 406頁
定価7,260円(本体6,600円 + 税)
ISBN978-4-498-22856-6
2016年04月発行
在庫僅少
脳出血・くも膜下出血診療読本
豊田一則 編著 / 高橋 淳 編著
A5判 406頁
定価7,260円(本体6,600円 + 税)
ISBN978-4-498-22856-6
2016年04月発行
在庫僅少
序
2014 年に中外医学社から上梓された「脳梗塞診療読本」は,すこぶる評判がよく,発売1 年で改訂版作成に着手するに至った.脳卒中診療への関心の高さを実感した.同時に,出血性脳卒中に関する同種の教科書を求められる機会が増えた.
出血性脳卒中は昭和中期の日本では脳梗塞を超えかねないほどの罹患率を示したが,高血圧治療の進歩とともに発症率が著減した.しかしながら世界全体でみれば,現在でも死者数や障害調整生存年数(DALY)は脳梗塞よりも多い.また高齢化に伴うアミロイドアンギオパチー関連脳出血や,抗血栓薬服用に関連する脳出血など,新しいタイプの脳出血が台頭してきている.
出血性脳卒中は1970 年代のCT の登場とともに診断技術が進歩し,それに応じて外科治療法も整備された.しかしながら,この十数年で急性期再開通治療など脳梗塞の診療環境が一変したことに比べると,近年の出血性脳卒中治療は足踏みしている感がある.とは言え,超急性期血圧管理,新たな止血治療,血管内治療やより侵襲の低い外科治療など,注目すべき治療,今後の発展が期待できる治療も少なくない.そのような出血性脳卒中診療の新たな流れを,一冊に纏めた.
本書の編集にあたって,職場の最良の同僚である脳神経外科の高橋 淳部長に共同作業をお願いし,私はもっぱら「脳出血」の章の前半を担当した.とくにトピックスとして,金沢大学の山田正仁先生にアミロイドアンギオパチーについて,NHO 九州医療センターの矢坂正弘先生に抗凝固薬関連脳出血を,最新の知見とともに解説していただいた.その他,脳出血臨床で注目される業績を挙げられた若手の先生方が各単元を担当し,分かり易い内容に仕上げていただいた.兄貴分に当たる「脳梗塞診療読本」と併せて,また2015 年末に一足先に刊行されたKarger 社「New Insights in IntracerebralHemorrhage」(Toyoda 他,編集)と読み比べながら,お手元に置いて参考にしていただければと願うばかりである.
発刊にあたって共同編集者の高橋 淳先生,分担執筆者の先生方および中外医学者編集部の皆様に,多大なご尽力をいただきましたことを,深く御礼申し上げます.
平成28 年2 月
国立循環器病研究センター 脳血管内科部長/脳血管部門長
豊田一則
推薦文
この度,国立循環器病研究センター脳血管内科豊田一則先生と同脳血管外科高橋淳先生の共同編集によって「脳出血・くも膜下出血診療読本」が出版されることになった.私は豊田一則先生の「序」を読んで改めて感慨を深くした.
豊田先生の「序」には,「本書の編集にあたって,職場の最良の同僚である脳神経外科の高橋淳部長に共同作業をお願いし,私はもっぱら……」とある.国立循環器病研究センターは脳卒中と心臓血管疾患を専門的に扱う唯一の国立高度専門医療センターであり,脳卒中を専門とする内科医と外科医が全国から数多く集まるところである.脳卒中に限らず,同じ疾患を扱う内科医と外科医はしばしば考え方や方針が異なり,あるいは同じ結果に対する評価が異なり,両者間に少なからぬ溝が生じる事実は古今東西枚挙にいとまがない.
私も同センター脳神経外科部長時代に脳血管内科医が納得する外科治療を心がけた.手術適応を含め,外科治療に全国で最も厳しい判定をする,すなわち最も高い水準を要求するのが国循脳血管内科部門の医師達であったからである.患者さんにとっても,外科医としての私にとっても有り難い環境であったと思っている.内科医が納得しない外科治療に将来はない,外科医が納得しない内科治療にもまた将来はないと考えてきた.治療法は医学の進歩に伴い時代とともに絶えず変化してゆく.その時々で両者が納得できる方法で,納得できる結果を出してゆく.そこにこそ独善的にならない発展が期待できると思う.
両先生を身近に見てきた私にとって,豊田先生の「最良の同僚である脳神経外科の高橋部長」という表現に脳卒中医療のリーダーとしての哲学と矜持が感じ取れてとても嬉しく思う.その様な両先生の編集による「脳出血・くも膜下出血診療読本」であることを念頭に置いて本書を紐解いて頂けたら幸いである.
平成28 年2 月
国立循環器病研究センター 名誉総長
橋本信夫
目 次
第1章 脳出血診療
1 トピックス1:脳出血の病理と脳アミロイドアンギオパチー〈坂井健二 山田正仁〉
A.高血圧性脳出血
B.脳アミロイドアンギオパチー(CAA)
C.血管奇形に伴う脳出血
D.その他の原因による脳出血
2 トピックス2:抗凝固薬に伴う脳出血とその治療〈柴田 曜 矢坂正弘〉
A.抗凝固療法中の脳出血
B.脳出血時の対処
C.抗凝固療法の再開
D.モニタリング法
3 脳出血の疫学〈秦 淳 清原 裕〉
A.罹患率
B.危険因子
4 脳出血の局在と症候学〈三村秀毅 井口保之〉
A.救急での診察
B.脳出血部位による神経症候の特徴
C.症状増悪時
5 脳出血の画像診断〈渡邉嘉之〉
A.急性期脳出血診断のポイント
B.脳出血のCT 所見
C.脳出血のMR 所見
6 微小脳出血〈藥師寺祐介〉
A.脳小血管病としての脳出血とCMBs
B.CMBs の病理
C.CMBs の検出
D.CMBs と脳血管疾患
E.CMBs と脳卒中イベント
7 血圧管理〈有馬久富〉
A.脳出血急性期における積極的降圧療法のエビデンス
B.降圧療法開始のタイミング
C.降圧目標
D.安定した血圧コントロールの重要性
E.薬剤の選択
F.積極的降圧療法の安全性
8 抗血小板薬に伴う脳出血とその治療〈板橋 亮〉
A.抗血小板薬に伴う脳出血の疫学
B.抗血小板薬に伴う脳出血の臨床像
C.抗血小板薬に伴う脳出血の急性期治療
D.抗血小板薬に伴う脳出血の再発予防
9 急性期脳梗塞の再開通治療に伴う頭蓋内出血とその治療〈早川幹人〉
A.再開通治療に伴うICH の分類と病態生理
B.IV rt―PA に伴うICH の予測因子
C.血管内治療に伴うICH の予測因子
D.再開通治療に伴うICH の予防
E.再開通治療に伴うICH の治療
10 脳浮腫の管理〈中島 誠〉
A.脳出血後の脳浮腫
B.各国の治療ガイドライン
C.内科的治療・各論
D.外科治療
11 痙攣とてんかん重積〈久保田有一 中本英俊〉
A.痙攣
B.脳出血の抗てんかん薬の予防投与
C.てんかん重積
D.脳卒中後てんかん
12 開頭血腫除去手術〈丸山大輔〉
A.開頭血腫除去手術のエビデンス
B.手術の実際と周術期管理
13 脳出血の Minimally Invasive Surgery〈渡部剛也〉
A.内視鏡手術の特性と脳内血腫除去
B.脳出血の外科的治療における内視鏡手術の位置づけ
C.手術適応
14 腫瘍性出血の病理とその対応〈香月教寿 荒川芳輝〉
A.下垂体卒中
B.頭蓋内悪性腫瘍の出血
15 脳室内血腫への外科治療〈新 靖史 中瀬裕之〉
A.脳室内血腫の病態
B.脳室内血腫の治療
16 もやもや病による脳出血〈舟木健史 宮本 享 高橋 淳〉
A.出血型もやもや病とは?
B.出血型もやもや病の病態
C.もやもや病における出血好発部位
D.出血型もやもや病の自然歴
E.出血型もやもや病の急性期治療
F.出血型もやもや病の慢性期治療(再出血予防治療)
G.慢性期治療検討上の注意点
17 深部静脈血栓とその他の急性期合併症の予防と治療〈緒方利安〉
A.脳出血患者とVTE
B.われわれの検討
C.最 近の脳卒中患者に対するVTE 予防の大規模臨床試験の概要
D.その他の脳出血急性期患者での合併症
第2章 くも膜下出血診療
1 くも膜下出血の疫学〈高橋 淳〉
A.SAH による死亡率
B.SAH 発生数
C.脳動脈瘤はいつ破裂するか
D.SAH の転帰
2 囊状動脈瘤の成因と破裂機序〈吉田和道〉
A.囊状動脈瘤のモデル動物
B.動脈瘤形成・破裂機序
C.薬物治療の可能性
D.画像診断による破裂リスク評価の可能性
3 解離性脳動脈瘤の成因と破裂,修復機序〈水谷 徹〉
A.解離性脳動脈瘤の発生と内膜の定義
B.内弾性板の消耗断裂と内膜新生
C.解離性脳動脈瘤の発生と臨床形態
D.病理所見に基づいた解離性脳動脈瘤の臨床的特徴
4 くも膜下出血(脳動脈瘤破裂)の画像診断〈沈 正樹 黒崎義隆〉
A.くも膜下出血の診断
B.破裂脳動脈瘤の部位診断
C.軽症例に対する診断手順
D.多発脳動脈瘤の破裂部位同定
5 くも膜下出血の超急性期管理〈渡部寿一 大里俊明〉
A.搬入から診断まで
B.確定診断
C.鎮静/鎮痛
D.血圧
E.頭蓋内圧管理
F.抗線溶薬の使用
G.心肺機能の合併症
6 破裂脳動脈瘤の治療:直達手術と血管内治療の使い分け〈菅田真生〉
A.直達術と血管内治療を比較した大規模臨床試験
B.囊状動脈瘤に対する治療選択
C.解離性病変に対する治療選択
D.当院での直達術と血管内治療の使い分け
7 破裂脳動脈瘤に対するネッククリッピング術〈竹田理々子 栗田浩樹〉
A.手術目的
B.適応
C.手術手技
D.動脈瘤別のピットフォールとその対応法
8 破裂脳動脈瘤に対するコイル塞栓術〈近藤竜史 松本康史〉
A.基本的心構え
B.具体的手技と治療のゴール
C.トラブルシューティング
D.大規模臨床試験から読み取るべき事項
9 椎骨動脈解離性動脈瘤に対する治療〈佐藤 徹〉
A.破 裂椎骨動脈解離性動脈瘤の特徴,求められる治療について
B.後下小脳動脈起始部との位置関係による分類
10 内頸動脈前壁平皿状動脈瘤破裂の病態と手術治療〈片岡大治〉
A.内頸動脈前壁平皿状動脈瘤の特徴
B.内頸動脈前壁平皿状動脈瘤に対する外科治療
C.内 頸動脈前壁平皿状動脈瘤に対するHigh flow bypass を併用したトラッピング術
11 内頸動脈前壁平皿状動脈瘤破裂に対する血管内治療〈泉 孝嗣〉
A.コイル塞栓術の長所と短所
B.コイル塞栓術を行う上での注意点
C.テクニックおよびデバイス選択
D.術後管理および再発に備えた画像モニタリング
E.再治療
12 脳血管攣縮の病態:最新の知見〈鈴木秀謙 川北文博〉
A.用語の定義
B.DCI の発症予測
C.DCI の病態
13 脳血管攣縮に対する治療,その他の全身管理〈林 健太郎〉
A.診断
B.治療
14 くも膜下出血後の脳脊髄液管理〈上野 泰〉
A.水頭症の分類と病態
B.SAH 後の急性水頭症の病態と治療
C.SAH 後の慢性期水頭症の病態と治療
D.SAH 後の遅発性脳血管攣縮に対する治療としての脳脊髄液管理
15 くも膜下出血の予防:未破裂動脈瘤の破裂リスクと治療介入判断〈東 登志夫〉
A.未破裂脳動脈瘤の頻度
B.破裂率に関する多施設共同前向き研究
C.その他の観察研究
D.未破裂脳動脈瘤の破裂リスクを予測するスコアシステム
E.環境や患者側の因子
F.治療介入による合併症
G.未破裂脳動脈瘤保有患者の背景とリスク
H.未破裂脳動脈瘤の治療介入判断
索引
執筆者一覧
豊田一則 国立循環器病研究センター 脳血管内科部長/脳血管部門長 編著
高橋 淳 国立循環器病研究センター脳神経外科部長 編著
坂井健二 金沢大学大学院医薬保健学総合研究科脳老化・神経病態学(神経内科学)助教
山田正仁 金沢大学大学院医薬保健学総合研究科脳老化・神経病態学(神経内科学)教授
柴田 曜 国立病院機構九州医療センター脳血管・神経内科
矢坂正弘 国立病院機構九州医療センター脳血管・神経内科科長
秦 淳 九州大学大学院医学研究院附属総合コホートセンター准教授
清原 裕 九州大学大学院医学研究院環境医学分野教授
三村秀毅 東京慈恵会医科大学神経内科講師
井口保之 東京慈恵会医科大学神経内科教授
渡邉嘉之 大阪大学大学院医学系研究科放射線医学准教授
藥師寺祐介 佐賀大学医学部神経内科講師
有馬久富 福岡大学衛生・公衆衛生学教授
板橋 亮 広南病院脳血管内科部長
早川幹人 国立循環器病研究センター脳血管内科医長
中島 誠 熊本大学大学院神経内科・脳血管障害先端医療寄附講座特任教授
久保田有一 朝霞台中央総合病院脳神経外科脳卒中・てんかんセンターセンター長
中本英俊 朝霞台中央総合病院脳神経外科脳卒中・てんかんセンター部長
丸山大輔 国立循環器病研究センター脳神経外科
渡部剛也 愛知医科大学病院脳神経外科准教授
香月教寿 高松赤十字病院脳神経外科副部長
荒川芳輝 京都大学大学院医学研究科脳神経外科助教
新 靖史 大阪警察病院脳神経外科副部長
中瀬裕之 奈良県立医科大学脳神経外科教授
舟木健史 京都大学大学院医学研究科脳神経外科助教
宮本 享 京都大学大学院医学研究科脳神経外科教授
緒方利安 福岡大学医学部神経内科学教室診療准教授
吉田和道 京都大学大学院医学研究科脳神経外科講師
水谷 徹 昭和大学医学部脳神経外科学講座教授
沈 正樹 倉敷中央病院脳神経外科主任部長
黒崎義隆 倉敷中央病院脳神経外科医長
渡部寿一 中村記念病院脳神経外科副部長
大里俊明 中村記念病院副院長
菅田真生 国立循環器病研究センター脳神経外科
竹田理々子 埼玉医科大学国際医療センター脳卒中外科講師
栗田浩樹 埼玉医科大学国際医療センター脳卒中外科教授
近藤竜史 北里大学脳神経外科講師
松本康史 広南病院血管内脳神経外科部長
佐藤 徹 国立循環器病研究センター脳神経外科医長
片岡大治 国立循環器病研究センター脳神経外科医長
泉 孝嗣 名古屋大学医学部附属病院脳神経外科病院講師
鈴木秀謙 三重大学大学院医学系研究科脳神経外科教授
川北文博 三重大学大学院医学系研究科脳神経外科
林健太郎 佐世保市立総合病院脳神経外科診療部長
上野 泰 神鋼記念病院脳神経外科部長
東登志夫 福岡大学病院脳神経外科診療教授
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