3版の序
『はじめてのカーボカウント』(初版,2009年)が出てから,7年が経過しようとしています.その間,糖尿病患者の中でも「カーボカウント」の認知度は高まり,「カーボカウントってどんな食事療法ですか?」と尋ねられる機会が増えてきました.欧米では,糖尿病患者の食事療法として,体重管理に加え,カーボカウントが利用されることが多い.これは「厳格な血糖コントロールは合併症を減らせるか?」という仮説を検証した1型糖尿病の介入研究(DCCT,1993年報告)の食事指導として用いられて,患者の満足度も高く効果を上げたことから,アメリカでは翌年の1994年から低脂肪食と健康的な食品選択を基本として,すべてのタイプの糖尿病患者さんの食事療法としてカーボカウントが用いられています.英国でも食事中の炭水化物に合わせてインスリンを調節するDAFNE研究が行われ,血糖コントロールとともに食事関連QOLの改善がみられています.日本糖尿病学会でもカーボカウント小委員会が設置され,日本の実情に合わせたカーボカウントが検討されています.
日本では食事療法として,四群点数法,食事バランスガイド,バランス型紙,手ばかり,ポーションコントロールなどが用いられてきました.小学校では「6つの基礎食品群」を色に従って教えられてきました.糖尿病の食事療法としては,食品交換表が広く用いられてきました.食品交換表では,食品を大胆に6つに分類し,その食品群の中で食品を交換することでエネルギーや3大栄養素のバランスをとるように工夫されています.しかし,同じエネルギーをとっても「昼食はあっさりした麺類だから大丈夫だと思っていたら,意外と血糖値が上がった」など食後に血糖値が上昇する場合があります.逆に,宴会や野外のバーベキューなどで低血糖になったことを経験している人もいます.これはインスリン注射をしたのに,野菜類やたんぱく系の食品である肉などを先に食べて,炭水化物を含んだ焼きそばなどの食品摂取が後回しになったことが原因と考えられます.また,強化インスリン療法をしている患者さんから「外食時にはどのくらいインスリン量を打ったらいいのか?」という質問に対し,従来の食事療法では的確に答えることができないという状況でした.カーボカウントを行うことで,打つべきインスリン量を決定することができます.そのため,質のよい血糖コントロールを達成することが可能となります.そして,何よりも「インスリン調整に対する自信がついた」「友人と気兼ねなく食事ができるようになった」など患者さんのQOLが期待されます.第3版では最新情報を追加しましたので,ご一読していただき,患者さんの食事サポートに役立てていただければと思います.
2016年1月
編集代表 坂根直樹