はじめに
トリビアとは,本来くだらないことや些細なことなどを意味しますが,最近では「雑学」や「知識」という意味を多く含む言葉として使われるようになっています.
たとえば,世界中でほとんど眠らないか,眠っても1時間以内でありながら,健康に生活している人たちが現在4名以上知られています.その中の1人,ウクライナのヒョードル・ネステルチュク氏(68歳)が数年前に日本のテレビ局から取材されました.彼は24年以上前に一度眠ったきり,以来一睡もしていないとのことです.「ある日突然激しい腰痛と手足のしびれに襲われ,痛みのために夜も眠れなくなったんだ.最後に寝たのがいつだったか,いつこの不眠が始まったのかもう覚えていません.ある頃から,夜通し起きていても全く眠くならないことに気づいたんです」.これまで何度となく医師に相談したものの,原因が全く分からずに医師も困惑しているといいます.そこで日本のテレビタレント2人が訪問し,徹夜でずっと観察したものの,確かに外見上は全く寝ていませんでした.そこで3日目に,簡易脳波計を装着してみたところ,外見では覚醒しているはずなのに,脳波上にはマイクロスリープという睡眠脳波が記録されていたのでした.ごく短時間の睡眠を繰り返し積み重ねていたのが事実でした.24年前に激しい痛みのために眠れない状況だったことから,痛みの消えるごく短時間に眠りをとるように適応したのかもしれないと推測されます.
この「睡眠のトリビア2」では,睡眠に関する知識を楽しくわかりやすい形で,さらに出典を入れて紹介するようにしています.「睡眠のトリビア」は若手研究者の林光緒先生と内田直先生に編集者としてご協力いただきました.今回は日本における睡眠研究のパイオニアである堀忠雄先生と北浜邦夫先生にご協力をお願いしました.トリビア2の内容としては,眠りの文化史や幸せな夢をみる方法から,ヨットレースで勝つための睡眠法,弱小サッカー部を強くした睡眠教育など魅力的なタイトルが目白押しです.本書が,睡眠相談や睡眠医療に携わる方々のヒントになれば編著者として幸いです.
2016年1月 新春を迎えて
宮崎総一郎