序
多発性骨髄腫の治療は,1960年代から行われているMP療法を超える治療は長らく存在しなかったが,2000年以降サリドマイド,レナリドミド,ボルテゾミブといった新規治療薬が導入され,その治療成績は大幅に改善された.その結果,国内外の多くの臨床試験の結果に基づき多発性骨髄腫の治療戦略はかなり確立されたものとなってきた.しかしながら,それ以降も新規治療薬は次々に開発されており,わが国においても,最近になりポマリドミドおよびパノビノスタットの薬価収載が行われ,さらにcarfilzomibやixazomibといった新しいプロテアソーム阻害薬やいくつかの抗体医薬の治験が行われており,今後さらに多くの治療選択肢が増えることが想定される.
このように多発性骨髄腫をめぐる診療環境は急速に進歩しており,導入されてから15年が経過したサリドマイド,レナリドミド,ボルテゾミブは,もはや新規治療薬とは言えないような状況になっている.このような背景の中で,これからの多発性骨髄腫に対する診療のより良い向上を目的に,これまでの骨髄腫に関わる基礎および臨床面の重要事項を整理し,改めて検証することも含めて本書『ブラッシュアップ多発性骨髄腫』を刊行することとなった.本書は,病態解析研究の進歩や新しい診断基準,治療奏効の意義やその測定法に関する知見をもとに,多発性骨髄腫の新たな治療展開を理解できるように編集を行った.初発例や再発・難治例に対する寛解導入療法や治療戦略はもちろんのこと,MGUS/くすぶり型骨髄腫をいかに治療すべきか,地固め・維持療法をいかにすべきか,risk―adapted strategyや移植医療の位置づけなどの議論のある課題についても最新の考え方をまとめるようにした.さらに,日常診療でとかく問題となる合併症へのアプローチや,治療法の確立されていないアミロイドーシスやマクログロブリン血症などの類縁疾患も取り上げ,総合的に多発性骨髄腫診療に役立つ書籍となるように工夫した.執筆者はすべて第一線で活躍されているエキスパートにお願いし,各項目について最新の知見や臨床試験の結果に基づいて,できるだけわかりやすくかつわが国における現状に即した形での解説をお願いした.
われわれ臨床医は極めて多忙な毎日を送っている.新たに導入されつつある専門医制度もおそらく忙しさにさらに拍車をかけるものと思われる.どんなに忙しくなり,自分の時間が取れなくなっても,目の前の患者に最善の医療を提供するのが臨床医の責務である.本書は,このような多忙な日常を送っている臨床医や医療従事者が,多発性骨髄腫の診療に関わる新しい知見を再確認し,より良い診療を実践するのに必要な書籍である.多発性骨髄腫診療に関わっている多くの現場の方々に本書が広く活用され,多発性骨髄腫診療に役立つことを編者として願っている.
最後に,忙しい中に執筆いただいた先生方に心より感謝申し上げます.
平成27年9月
新しい教授室より頭を垂れつつある稲穂を見つつ
木 崎 昌 弘