序
骨髄不全(bone marrow failure:BMF)の中で,本書では,骨髄異形成症候群(myelodysplastic syndromes:MDS),再生不良性貧血(aplastic anemia:AA),赤芽球癆(pure red cell aplasia:PRCA),発作性夜間ヘモグロビン尿症(paroxysmal nocturnal hemoglobinuria:PNH),原発性骨髄線維症(primary myelofibrosis:PMF)を扱う.
非腫瘍性疾患とされているAAであるが,経過中にMDSや急性骨髄性白血病(acute myelogenous leukemia:AML)へ移行する例がある.MDSは造血幹細胞における遺伝子変異の蓄積により発症するクローン性造血器腫瘍であるが,MDSの一部の症例ではAAと同様に免疫病態が血球減少に関与している.このようにAAとMDSの境界は不明瞭である.現在,全エクソンシークエンスが大規模な集団で行われ,骨髄不全症の病態が急速に解明されてきている.その結果,AA患者の中にも,遺伝子変異を有するクローン性造血が診断時にすでに存在する例があることが明らかにされた.さらには健常人とされるなかにも,血液学的な異常を指摘できないにもかかわらず,骨髄系腫瘍の候補遺伝子の体細胞変異が存在し,その後の造血器腫瘍のリスクになることも明らかになった.
当初,MDSに特化した書籍として本書は企画された.しかし,骨髄不全症の研究が急速に進み,その概念も変貌してきた.そのため,最新の骨髄不全症の動向の理解が臨床血液学にとって重要と考えた.本書は,臨床の現場で役に立つことにも配慮し,診断基準,治療指針,治療効果判定基準,処方例なども詳細に記載されている.それぞれの領域の専門家が解説する本書が,骨髄不全症の理解と今後の診療に活用されれば幸いである.
2015年9月
松田 晃