監修の序
医学部の学生の頃から教授職になる今まで,脳外科の臨床実習や初期の研修に役立つハンドブックがないことを残念に思っていた.その思いが,今回の出版の原点である.ただ,出版に際しては,当初,逡巡があった.優れた教科書が多い中で,「屋上屋を架す」だけになるのではという危惧であった.
せめて一隅を照らすためには,明快なコンセプトが必要であった.それは,?白衣のポケットに入ること,?学生・研修医がベッドサイドで使えること,?ミニマムであるが網羅的であること,?先端に触れることができること,であった.思えば,ハードルの高いものであり,実際,発案者である私の力には余るものであり,構想が空回りし,頓挫を重ねてきた.
教室の3名の先生方が,この構想の空転に終止符を打ち,美事に最初のコンセプトを完璧な形にしてくれた.「脳神経外科グリーンノート」は,実に明快なハンドブックである.本書は,最新の画像と厳選された知識,そして,新たな知的興味を呼び起こす「tips pearls」からなる明快で単純な構成となっている.そして,何より,脳外科臨床研修で必要不可欠な78の厳選された疾患が,ほぼ同等のページ数で統一されている.本書は,「読みやすい!」「必須の知識がベッドサイドで確認できる!」「いつもポケットに入る!」など,on the job trainingには最適のハンドブックである.
教科書の多くは,肥大化し,やがて,膨大なボリュームとなる.あるいは,極端な図表化が起こり,理解する努力の芽を摘み,結果として理解を妨げる危険を持っている.これを防ぐために,知識の膨張を整理と「剪定」とも言える「知識の選択」をする決断は,高度な知的作業である.
「脳神経外科グリーンノート」は,そうした従来の教科書の弱点をカバーする労作であり意欲的なハンドブックである.また少数精鋭の筆者の手によるものであり,統一性の点でも優れている.
日本語による脳神経外科ハンドブックとしては,最初の成功例になると確信している.一隅を照らすことはもちろん,日本の脳神経外科の多くの臨床現場で学生・研修医にスマートフォンと一緒に携帯され,愛着の湧く一冊になることを期待している.
2015年9月
北海道大学大学院医学研究科脳神経外科教授 宝金清博