はじめに
てんかんは身近な病気で,特に小児科領域における有病率は高く,てんかんを見なくて済む小児科研修医はいないといってよいでしょう.しかも,発作症状が突然に,激しく起こりますので,保護者の方の動揺も大きく,また,医療スタッフの緊張も高いものです.救急外来で,患者さんを前にひとりぼっちになってしまうこともあるでしょう.そのときに,どのような対処をして,また,どのように説明をすればよいか,簡便に,短時間で覚えてしまおうというのが本書の狙いです.
臨床の現場は忙しく,眠る時間を確保するのも大変でしょう.仕事が終われば,寝てしまいたい,本を読めば1分で寝てしまうというのが常でしょう.しかも,あまり興味もない病気の勉強など,そう簡単にできるものではありません.これは,私のこれまでの経験に基づくものなので間違いありません.
そこで,しょうがなく,てんかんを診なくてはならない方々が,簡便に,短時間に,エッセンスだけ頭に入れてもらうために表したのが本書です.もし可能であれば,学会の書籍ブースで手に入れたら,家に帰るまでに読めてしまう内容と分量を考えました.そして,通読できるものを考えました.やはり,網羅的に,全体の内容に触れることが,疾患を理解する上では一番重要でないかと思ったからです.そして,家に帰ったら捨ててしまってもよいくらいで考えました.ずっと机の上において,辞書的に調べる代物ではない予定です.
自分の立場上,研修医や学生が診察室の後ろの椅子に座って,私の診察を見学していることが多くあります.正直あまり得意ではないのですが,その研修医や学生に自分の姿を見せているようなイメージで書きました.おそらく,図表を飛ばせば,斜め読みですぐ読み終わるものと思います.
昨今,てんかん発作は手術で完全に駆逐できるものもでてきました.小児科領域のてんかん発作は,年齢依存性の良性てんかんも多く,良くなって親御さんや本人に感謝されることも多くあります.てんかん学は,それなりにやりがいがある学問ではないかと最近は思えるようになってきました.
本書を通読して,てんかん学の世界にもしかして足を踏み入れてくれる若いお医者さんがいたら,本当に嬉しいです.
本書の完成は,中外医学社の鈴木真美子さんの温かい励ましと激励なくしては得られませんでした.心から感謝申し上げます.
2015年4月
白石秀明