序
本書は,リハビリテーション医学・医療に関わる医療従事者,特に若手の理学療法士や作業療法士,初期臨床研修医,専門医を目指す専攻医などに,臨床神経生理学がリハビリテーションに役立つことを知っていただき,臨床神経生理学へと“いざなう”ための本です.リハビリテーション医療は,患者の疾病およびそれによって生じた障害を治療して改善させるとともに,それに限界があったとしても,さまざまな手段を講じて生活を再建し,その質を高める医療です.そして,リハビリテーション医学は,“動きにくくなる”こと(必ずしも運動の障害ばかりでなく,感覚や高次脳機能の障害も含みます)を評価し,治療する学問です.つまり疾病そのものを直接的に治療するとともに,それによって生じた障害に介入できることがリハビリテーション医学・医療の真骨頂です.臨床神経生理学というととても難しそうな学問とお考えになると思いますが,それらをやさしく,わかりやすく解説したのが本書です.人が動きにくくなることにはさまざまな原因があり,それを探ること(診断),評価をすること(病気や障害の重症度を知ること),さらに治療手段に結びつけることができるのが臨床神経生理学です.
筋電図,電気刺激,脳波,誘発電位,磁気刺激,経頭蓋電気刺激,自律神経とはどのようなものか? またどのようにすれば,それらを記録でき,リハビリテーションに応用できるのか? 実際に患者さんの脳波や筋電図などを記録するにはどのようにするのか? 本書は,こういった疑問に関する知識と方法をできるだけわかりやすく解説したものであり,読んでいくにつれ理解が深まり,自分でもやってみようと思わずにはいられなくなると思います.これらの方法はリハビリテーションにおける客観的な評価や治療手段に使用することができます.上手に利用すれば,さらに深く疾病や障害を理解し,リハビリテーションによる治療およびその効果を明らかに示したい場合や,生体信号(筋電図など)をリハビリテーションの手段として用いたい場合などに“とても役に立つ”ものです.つまり,リハビリテーションが障害をもった人を対象としているからこそ,臨床神経生理学は欠かせないものであるといえると思います.
本書を通して,リハビリテーションに関わるみなさまに,臨床神経生理学がとても身近で,“とても役に立つ”学問であることを知っていただきたい.そして,もっと活用していただき,臨床神経生理学がリハビリテーション医療・医学を大きく発展させるものになることを期待し,信じております.さあ,まずは記録してみましょう.
2015年3月
正門由久