序
1950年代米国では,急性心筋梗塞による死亡の急増に対して集中的管理が必要であることからCoronary Care Unit(CCU)が創設された.初期には,致死的不整脈に対する処置,次には心不全に対する血行動態の把握を基にした治療により死亡率減少に成果をあげてきた.1980年代になると,ステントを用いた確実な再灌流治療が可能となり急性期死亡は急速に低下するとともに,初期には平均1週間であった急性心筋梗塞患者のCCU在院日数が1〜2日と減少した.このように急性心筋梗塞患者の救命という点ではCCUは役割を終えたかのように思えるが,心疾患の救急期治療のニーズとしてのCCUの需要はさらに高まっている.急性心筋梗塞の治療経過の中で習得されたノウハウが,全ての心疾患の終末像である重症心不全患者の治療に生かされ,補助循環をはじめとして多くのデバイスを含めた治療戦略が展開されるようになった結果,救命,場合によっては心臓移植へのブリッジが可能になった.CCUはこれまでよりはるかに重症な患者の治療をするCardiac Care Unitとなったのである.患者の重症化とともに治療も高度になり,より広い深い知識がCCUで働く医師には必要となり,さらに社会の高齢化に伴い複合疾患を合併する患者が増加から循環器だけの知識だけでなく幅広い疾患の理解が必要になった.また,時代とともに,疾病構造が変化し,心疾患だけでなく急性期の循環動態を維持しなければならない,大動脈解離や肺血栓塞栓症が増加し,その診断,治療にもあたらなければならない.このような変化につれて,医療者はCCUで忙しくかつ緊張して成果を出す仕事が求められる.高度で複雑化するCCUでの業務を少しでも軽減するためには,CCUでのトラブルを即座に解決するヒントになる本があればと思い,この本を企画し,日本大学医学部循環器内科のスタッフで作成した.
CCUで働くすべての方々のお役に立てれば幸いである.
2015年3月
日本大学医学部内科学系循環器内科学分野主任教授
平 山 篤 志