巻頭言
私たちが携わる生殖医療の場では,医師(産婦人科・泌尿器科),看護師,胚培養士,カウンセラー(遺伝・心理)などの複数の職種の方々が,挙児を切望するクライアントに対する最高水準のチーム医療の提供を目標とし,これまで実践してきました.その際には各施設におけるマニュアルだけでなく,各個人が培ってきた経験にも基づき,また時にはガイドラインやマニュアルを参考とし,適切な生殖医療が提供されているものと推察されます.
以前私は,日進月歩の生殖医療に永年従事されてきた先人の医師たちが,さまざまな工夫と努力の末にたどり着き習得されたスキルを後進に惜しみなく伝授する目的で,『不妊症・不育症診療 その伝承とエビデンス』という書籍を,同じ中外医学社から2019年11月に出版致しました.幸いなことに,将来の生殖医療をリードする若手世代ばかりでなく,中堅〜ベテラン世代の先生方からも,今まで気がつかなかった斬新な手法や考え方も学ぶことができたと,非常に好評を博してきました.
そこで本テキストでは類似の発想に基づき,読者の対象を主に培養業務に携わる胚培養士の方々として,全国の経験豊富な胚培養士の皆様,あるいは培養室業務に造詣が深い基礎系の先生方や生殖医療担当医に,「ラボテクニックの伝承」として秘伝の技につき御執筆いただきました.これからを担う若手の胚培養士の皆様は,ご所属先で先輩方から丁寧な指導を受ける機会はおありでしょうし,それだけでも日常業務においては十分すぎるかとは思いますが,本書では日頃講演を担当されるような大先輩方も含むエキスパートから,秘技を学ぶチャンスとしてご活用いただけることを確信しています.
なお総論編では,「生殖補助医療(ART)の必須知識」を整理する目的で,各領域でご活躍されている国内外における第一人者の先生方にご執筆を賜りました.これらの情報を活用していただき,日頃の業務だけでなく,職種間のカンファレンスなどの議論の場でもお役立ていただけましたら,望外の喜びです.
本書の刊行にあたり,ご多忙な中ご執筆頂いた先生方に喪心より感謝を申し上げます.また本書の企画以来,中外医学社の皆様方からは献身的なご協力,ご指導をいただきましたことに,深く感謝を申し上げます.
令和4年1月
兵庫医科大学医学部産科婦人科学講座主任教授
兵庫医科大学病院生殖医療センター長
柴原浩章